岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ワアド監督が命がけで発信した渾身のドキュメンタリー

2020年07月03日

娘は戦場で生まれた

©Channel 4 Television Corporation MMXIX

【出演】ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブ ほか
【監督】ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ

生まれたばかりの赤ん坊がいきなり死と直面する世界

 2011年、チュニジアに始まり中東に広がった大衆民主化運動「アラブの春」は、シリアの若者たちも触発され、平和的な抗議行動が行われるようなった。40年間君臨しているアサド政権が、そんな事態に指をくわえて見ているはずがない。ロシアの支援を受けた現政権側は、反政府運動に軍事行動を伴った徹底的な弾圧を加えていく。

 本作は、「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれるシリア内戦を、スマホや小型ビデオカメラなどを使って死と隣り合わせの状況で撮影した、恐ろしくて凄まじい映画である。

 2012年、アレッポの大学に通うワアドは映像を撮り始める。ほどなく彼女はアレッポの病院に勤める医師のハムザと結婚し娘のサマを授かる。

 結婚し子どもが生まれ、その幸せな様子をホームビデオで撮影する。日本でもよくある光景だが、シリアでは赤ん坊の笑顔の直後に爆音が響き、あたり一面が煙に包まれる。生まれたばかりなのにいきなり死と直面するのだ。

 虐殺による大量の遺体が並ぶ広場。そして集団で土に埋められる様子。ワアドのカメラは、それらを淡々と映していく。これは劇映画ではない、本物の死なのだと彼女は記録し続ける。

 そんな時、奇跡の瞬間がやってくる。妊娠9か月の妊婦から帝王切開で取り出した赤ん坊。生気がなく息もしてない。心臓マッサージをはじめ出来る限りの懸命の処置をしていると、時を切り裂くように「オギャー」との泣き声が上がる。歓喜の瞬間を克明に写しとった奇跡の映像である。医療従事者の真摯で誠実な姿に拍手を送りたい。

 こんな戦乱のさなかでも、大破したバスにペンキを塗って楽しんでいる子どもたちがいる。過酷な現状の中でも、無邪気に笑う子どもたち。彼らの笑顔を見ていると、戦争による惨さや理不尽さが際立ってきて、他の国のことだと無関心ではいられなくなってくる。

 ワアド監督が命がけで発信した渾身のドキュメンタリーである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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