岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ドノヴァンの「死」は、ルパートによって「生」となった

2020年06月19日

ジョン・F・ドノヴァンの死と生

© 2018 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.

【出演】キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、ジェイコブ・トレンブレイ、キャシー・ベイツ
【監督】グザヴィエ・ドラン

ドラン監督が現在の自分を投影していることに間違いはないだろう

 グザヴィエ・ドラン監督は、母との確執から来る心の闇や、自身がゲイであるというマイノリティの立場から、人間の弱さや寂しさを表出し、理解し合い尊重することの難しさを一貫して描いてきた。

 本作での主役ジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)は、2006年に29歳で亡くなった人気俳優という設定。ドランは俳優としても活躍しているが、この映画の撮影時の年齢は29歳。現在の自分を投影していることに間違いはないだろう。

 もう一方の主役は、ドノヴァンと文通していたという当時11歳の少年ルパート(ジェイコブ・トレンブイ)。レオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという少年時代のドランそのものだ。

 このドランの2人の分身が、2006年と2016年を複雑に行き来しながら、まだゲイを公表するのが難しく勇気がいった時代とカミングアウトした今とを、色彩感覚豊かに物語っていく。

 ドノヴァンはスターとしての虚構を作り上げ、それを守るために「真実」を隠して生きていた。子役だったルパートは、同性に惹かれることに気が付き始める。ドノヴァンが唯一「真実」を吐き出し心を許せるのは、文通相手の見も知らぬ少年。一方でいじめられっ子のルパートは、その手紙だけが心の支えだ。

 2016年、新進俳優となったルパートは、100通以上のドノヴァンとの手紙を公開する。しかし、それが「真実」かどうかはルパートの証言のみ。もしかしたら彼の虚構かもしれない。「真実」なのは、ドノヴァンはゲイを隠してルパートは公表したこと。ドノヴァンの「死」は、ルパートによって「生」となったのだ。

 ラスト、青年になったルパートは金髪の青年とバイクに跨る。それはドランが大好きな『マイ・プライベート・アイダホ』のリヴァー・フェニックスに重なる。

 思いの強さからか独りよがりで若干の分かりにくさもあるが、ドランの願望がこもった自伝的映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る