岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

震災ですべてを失った少女の再生の物語

2020年05月24日

風の電話

©2020 映画「風の電話」製作委員会

【出演】モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和、渡辺真起子、山本未來、占部房子、池津祥子、石橋けい、篠原篤、別府康子
【監督・脚本】諏訪敦彦

人の優しさに触れる旅は明日へと繋がる

 高校生のハル(モトーラ世理奈)は、広島の叔母・広子(渡辺真起子)と暮らしている。8年前の東日本大震災で家族を亡くした喪失感からは、いまだに抜け出せない。その眼差しには虚無感がただよう。そんなある日、叔母が倒れ、唯一の心の拠り所すらあやうくなってしまう。

 廃墟で倒れていたハルを救うのは、年老いた母と暮らす公平(三浦友和)で、彼もまた、広島の豪雨災害の被災者だった。ハルのただならぬ様子を察した公平だが、食べ物と休息の場を供するほかは、決して深入りしない。ハルの前へ進もうとする様子を確認し、優しく送り出す。

 物語は、こうした出会いを基調としたロードムービーとなる。ヒッチハイクで東を目指すハルには危険がつきまとうが、その都度、人の優しい手がハルを引き寄せてくれる。豪華な食事をご馳走してくれるちょっと不思議なカップル。若者に絡まれているところを救ってくれる森尾(西島秀俊)。彼もまた震災で家族を失っていた。

 映画の題名でもある「風の電話」は、岩手県大槌町の海岸の丘に実在する私設電話ボックスで、その地で津波を目の当たりにした庭師によって設置された。当初は震災以前に亡くなった従兄と、もう一度話したいという思いから始まったものだったが、震災後は、死別した人への想いを伝える場所として、広く世に知られるようになった。電話線の繋がっていない電話機の傍には、一冊のノートが置かれ、訪ねた人はそこで亡き人に電話で思いを伝え、ノートに気持ちを書き留めたりしている。横には「風の電話は心で話します/静かに目を閉じ/耳を澄ましてください 風の音が又は波の音が 或いは小鳥のさえずりが聞こえたなら/あなたの想いを伝えて下さい」と記されている。

 旅の過程の地理的な位置が見え難いことや、クルド難民のくだりといったはみ出し気味のエピソードが、少しテンポを悪くしているのが残念だ。

 ハルを演じたモトーラ世理奈は、重厚なベテランに脇を支えらながら、鮮烈な存在感で好演している。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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