岐阜新聞 映画部

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「仮設の映画館」で鑑賞した、共生の大切さが分かる「人薬」の映画

2020年05月10日

精神0

©2020 Laboratory X, Inc

【出演】山本昌知、山本芳子
【監督・製作・撮影・編集】想田和弘

精神医療の世界と老いた夫婦のありのままの姿を見せつつ、生きることの意味を考える

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言により、映画館で映画が観られない状況が続いている。そんな中、「いま脅威にさらされているのは、観客、劇場、配給、製作者によってまわっている映画の経済」だと訴える想田和弘監督の呼びかけで、インターネット上に「仮設の映画館」が開設された。これは鑑賞料金(1,800円)を払えば、その興行収入が指定する劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みだ。

 ゴールデンウィーク(元々映画業界の宣伝用語)中、ステイホームしている私であるが、Twitter上で果敢に発信し続ける、物言う映画人・想田監督の観察映画第9弾『精神0』を名古屋シネマテーク指定で鑑賞した。

 本作は、10年前に公開された観察映画第2弾『精神』で登場した精神科医・山本昌知先生(82歳)が突然引退することを知った想田監督が、精神医療の世界と老いた夫婦のありのままの姿を見せつつ、歴史的転換点を過ごしている私たちと一緒に、生きることの意味を考えようという映画である。

 山本先生が素晴らしいのは、患者さんの話を決して否定せず、熱心に傾聴している点だ。私が勤める事務所に通う精神障害者の方からは、「3分間診療で話を聞いてくれない」とか「医者の仕事は診断書と処方箋を書くだけ」などと聞くことがある。

 山本先生は、患者さんの訴えに「どうしたらいいと思う?」と問いかける。決して決めつけたりしない。病名でなく本人が何に困っているかで診断するのだ。認知症の奥さんのお友達にも、イザという時に支えてくれたことを感謝する。そこには「共生」の思想がある。

 説明テロップもナレーションも音楽もない「観察映画」。親切とは無縁のつくりだが、この映画のテーマについて「どう思うか?」は、監督が観客にゆだねているのだ。

 "自粛警察"など一方的な正義を強要する風潮の中で、共生の大切さが分かる「人薬」の映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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