岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

これほど熱く語り合い盛り上がった映画はなかった

2020年04月18日

閉鎖病棟 それぞれの朝

©1994帚木蓬生/新潮社 ©2019「閉鎖病棟」製作委員会

【出演】笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈
【監督・脚本】平山秀幸

映画の本質、最高のプレゼント

 私は普段、精神障害者を主とした就労移行支援事業所で働いている。映画好きな職員も多く、鬱陶しがられつつ映画マニアとして重宝されてはいるが、職員間でこれほど熱く語り合い盛り上がった映画は未だかつてなかった。それは福祉関係経験者には違和感ありあり、突っ込みどころ満載の「とんでも映画」としてである。

 そもそも映画の冒頭では、「閉鎖病棟」はこうだと言わんばかりに鍵の開け閉めの場面が執拗に描かれるが、病院内はいつの間にか出入り自由のアッパラパー、屋上は開けっ放しで飛び降り自殺をしてくださいとのお膳立ての中で、筋書き通り主役の由紀(小松菜奈)は飛び降りるが、都合よくお腹の中の胎児だけが死んで自分は無傷で生還する。なわけないやろ!

 そもそも、元死刑囚の梶木(笑福亭鶴瓶)が、何故だか棟から独立した陶芸室に誰の監視もなくいられるわ、統合失調症のチュウさん(綾野剛)が、外で買ってきた商品を院内で勝手に 売る商売を始められるわ、明らかに家庭に問題がある由紀を、義父(山中崇)の抗議だけであっさり引き渡すわ、この病院に管理という概念は無いのか!対応がダメダメすぎる!

 極めつけは院内のカラオケ大会を邪魔するなど、他罰的(自分の不幸を他人のせいにし攻撃する)な上、性的衝動もある患者(渋川清彦)の描き方。自傷他害の可能性があるのだから一時的隔離の処置をとるべきでしょ!責任は全部病院側にある!

 全てを悟ったような看護師長(小林聡美)が、退院するチュウさんに「ゆっくりゆっくりでいい。それでもだめだったら帰ってきなさい」という、いいアドバイスもあるにはあるが、最初から最後まで、「こんな病院ないわ!」のオンパレードで、我が事務所は爆笑の渦であった。

 がしかし、これは決してけなしているのではない。映画ひとつのことで、ここまで楽しめて語り合い、みんなが笑顔になる。これぞ映画の本質、最高のプレゼントである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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