岐阜新聞 映画部

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美術に憑かれた男の最期の賭け

2020年04月16日

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

©Mamocita 2018

【出演】ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス
【監督】クラウス・ハロ

オークションの高揚感と真物の神髄に浸る至福

 年老いた美術商オラヴィ(ヘイッキ・ノウシアイネン)は、長年にわたり、家族すら省みることのない生き方をしてきた。美術商としての仕事に没頭するあまり、というのは聞こえが良いが、絵画の魔力に取り憑かれていたというのが、正しいのかも知れない。

 ある日、疎遠だった娘のレア(ピルヨ・ロンカ)がやって来て、問題児の孫息子オットー(アモス・ブロテルス)を職業体験の単位を取得するため、数日間預かってくれないかと頼んでくる。

 舞台となるのはフィンランドの首都ヘルシンキで、通りにはいくつかの画廊=ギャラリーが点在している。オラヴィの店はそのひとつ。オークションで購入した絵画には、買い手の目星がある。古い顧客リストを繰り、電話で掘り出し物があることを告げるが、客の反応は今ひとつであったりする。ひなびた店には、古いタイプライターが未だに活躍している。その主人同様に、全てがアナログの世界で埋め尽くされている。しかし、そこはオラヴィにとってかけがえのない場所で、売れぬまま埃をかぶった絵画一点一点にも愛着があった。

 久々に会う孫のオットーは、窃盗で補導されたことがあり、職業体験の受け入れ先が見つからなかった。渋々店番を任せることにしたが、オットーが意外な商才を発揮したことで、美術品にも興味があることを発見する。

 映画では、ヘルシンキにあるアテネウム美術館が登場する。オラヴィはオットーを連れ、そこに展示された国宝級の絵画を見せ、その真髄を伝授しようとする。また、併設されたアートギャラリー図書館はオットーの学習の場となる。

 近所のオークションハウスの下見会に出かけたオラヴィは、1枚の肖像画に目を奪われる。署名もなく出どころも確かではない絵画に、美術商としての最期の一花を咲かせる賭けに出る。

 『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、本当に価値のあるものを探求し、たどり着いた男の生き方を静かに語る佳作である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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