岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

“縦の構図”が象徴する社会の格差

2020年04月19日

パラサイト 半地下の家族

©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

【出演】ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
【監督】ポン・ジュノ

ポン・ジュノ監督の力量と韓国映画の持つエネルギーを体感できる

 韓国映画にはかつての日本映画が持っていたエネルギーがあると実感させられる。昨年の外国映画マイベスト・ワンは『バーニング 劇場版』であり、一昨年も『1987 ある闘いの真実』がベスト・テン上位にランクイン。その前の年のベストワンも『お嬢さん』であった。いずれも荒々しいエネルギーに満ちており、その迫力に圧倒された。本作『パラサイト 半地下の家族』もそんな韓国映画のエネルギーを感じさせる作品であった。

 この映画は貧しい半地下の家族であるキム一家と裕福な高台に住むパク一家を対比させ、格差社会に切り込んではいるが、それを娯楽色豊かに描いてみせたのが最大の魅力である。そして、その見せ方は実に技巧的で緻密だ。

 半地下のキム一家は巧みに高台のパク一家に潜入し、見事に“パラサイト”している。そのためには手段は選ばないのだが、このキム一家はかなりのハイスペック家族なのだ。そのハイスペックぶりは、観ているこちらまで不敵な笑みがこぼれるほど。家庭教師から文書偽造、運転手に家政婦までなんでもそつなくこなす。これだけのハイスペック家族が半地下生活という点も社会の闇を感じさせる。

 そして、キム一家はパク一家の留守中には好き勝手して過ごしている。その見事な狸っぷりは面白いが、さらにスリリングなのは好き勝手がバレそうになった時のこと。慌てて机の下に隠れ、隙を見て逃げ出そうとするのだが、なかなか上手くいかない。そして、やってきたチャンスは、パク夫婦がソファの上でいい雰囲気になっているときというのも面白い。ここで我々はソファの上のパク一家と机の下のキム一家という縦の構図ができていることに気付く。高台と半地下という縦構図がここでも出現している。しかし、下には下がいた。なんと本当に地下に住む夫婦が登場し、この映画は高台の一家、半地下の一家、地下の一家という三層構造となる。どこまでも根深い格差が見事に表現されている。

 この地下の一家によって、キム一家の計画は大きく狂っていくことになり、ラストは“匂い”によってすべてが崩れ去る。この“匂い”は縦構図と並んでこの映画のキー。格差と人間の無意識に放たれる悪意の象徴として劇中に何度も登場し、最後の怒涛の展開に説得力を与えている。

 最後まで緊迫感あふれる展開が続き、全く退屈しない優れたエンターテインメントながら、社会の闇を鋭く、技巧的に描き切った本作。ポン・ジュノ監督の力量と韓国映画の持つエネルギーを体感できる作品である。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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