岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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「レ・ミゼラブル」の舞台である街を描いた、戦慄すべき傑作

2020年03月24日

レ・ミゼラブル

© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

【出演】ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
【監督・脚本】ラジ・リ

150年前から何も学習してない人間の愚かさ

 私が高校生くらいまでに持っていたフランスのイメージは、1789年にブルボン絶対王政を倒して市民による共和政を実現した「フランス革命」の国であり、「自由・平等・博愛」が国是で、「暴君を倒せ」と歌う「ラ・マルセイエーズ」を国歌とする、憧れの国「おフランス」だった。また、手をつないで道幅一杯に広がって行進するデモを「フランス式デモ」というなど、市民の権利獲得のために世界史の先頭を走ってきた国だと思っている。

 本作は、ヴィクトル・ユゴーが1862年に発表した「レ・ミゼラブル(ああ無情)」の舞台であるパリ郊外の街・モンフェルメイユの現状を、徹底したリサーチに基づいてリアリズムで描いた、戦慄すべき傑作である。

 フランスのように歴史的に民度の高かった国でさえ、グローバル社会の中で市民階級の次に現れてきた移民を中心とする多文化の階層の人たちを、仲間とみなさず迷惑な存在とする不寛容な社会になってきている。

 ある少年が起こした「サーカスの子ライオンを誘拐する」という大胆な行動を引き金に、今まで一発触発の中に絶妙な緊張感を保っていた下層階層の中の支配層と不良グループ、そして警官との攻防は、どんどんエスカレートしていき収拾がつかなくなってくる。

 サッカーのワールドカップで優勝すれば、熱狂的に盛り上がるほどフランスが大好きなのに、フランスに裏切られた気持ち。限られた選択肢しか与えられてない彼らには、チカラにはチカラ、暴力には暴力という負の連鎖が続いていく。

 アフリカ系フランス人のラジ・リ監督は自身が生まれ育ったモンフェルメイユで起こった衝撃的な出来事を、シンプルで説得力ある脚本を基に、ニュース映像のような客観的なカメラと、出演者たちを徹底的に追い込んだ緊迫した演出で、150年前から何も学習してない人間の愚かさを冷徹に描いていく。

 人間はいつになったら気が付くのか?血の叫びである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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