岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品山中静夫氏の尊厳死 B! 人の死に方から見える尊厳の重み 2020年03月27日 山中静夫氏の尊厳死 ©2019映画「山中静夫氏の尊厳死」製作委員会 【出演】中村梅雀、津田寛治、小澤雄太、天野浩成、中西良太、増子倭文江、大島蓉子、石丸謙二郎、大方斐紗子、田中美里、浅田美代子、高畑淳子 【監督・脚本】村橋明郎 患者と医師の交流から見える生き方へのメッセージ この映画にはふたりの主人公が登場する。 山中静夫(中村梅雀)は、末期癌で余命わずかと診断された。その時、心に湧き上がったのは、生まれ故郷の信州に戻り、最期を迎えたいという思いだった。 医師の今井(津田寛治)は、病気からの呼び出しに自宅から駆けつける。病室のベッドには家族に見守られながら、最期を迎えようとする患者がいる。医師でありながらも、既に手の施しようはない。そして、静かに息を引き取る患者の最期を看取る。その日々の繰り返しに医師は疲れていた。 映画で病というテーマを扱う時、デリケートな問題が発生する。その対象は老若様々になり、状況としては、闘病ものでも、試練を乗り越えて快方に向かうものもあれば、死に至るまでを直視するものもある。そういう時によく言われるのが、現実からの乖離であろう。特に、直面する体験をした人たちの当事者意識からは、状況が甘いとか、所詮は綺麗事にしか描かれていない、などの批判が発生する。これは至極真っ当な意見で、それに言葉を挟む余地はない。 山中は生まれ育った故郷の山々(長野県佐久市)を見ながら最期を迎えたいと訴える。今井は家族の負担も考え、自宅のある静岡の病院での治療を薦めるのだが、山中の意思は固く、受け入れを決断することになる。 山中静夫氏には、決められた生き方、あるいは死に方の道筋が決定されてしまっている。主治医となる今井がそれを正しく尊厳するのだが、山中の妻(高畑淳子)との間には、はじめは受け入れ難い距離が存在する。それは、受け手である観客が感じる違和感と同意で、山中の姿がわがままと見えることである。 今井医師は繰り返されるお見送りに疲弊している。患者と対峙する誠意の殻が、厳しい現実によって剥がされていく。 ふたりの交流の中に見えるのは、死に方の提示にとどまらない。生き方についての問いかけがある事が、この映画に厚みを持たせている。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 90% 観たい! (9)検討する (1) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2023年02月02日 / 恋のいばら 炸裂する城定節と女優2人の可愛さに惚れた 2023年01月31日 / レジェンド&バタフライ 東映の活動屋魂が詰まった、時代劇の決定版 2023年01月31日 / レジェンド&バタフライ 新たな伝説として甦る信長と濃姫の物語 more 2021年06月23日 / 【思い出の映画館】シアターホームラン(埼玉県) 小江戸・川越で映画の灯を守り続けた老舗劇場 2021年12月22日 / 【思い出の映画館】千日前国際シネマ(大阪府) 戦後、難波の映画街で多くの日本映画を送りつづけた 2018年03月07日 / 桜坂劇場(沖縄県) 様々な文化の発信基地として生まれ変わった映画館 more
患者と医師の交流から見える生き方へのメッセージ
この映画にはふたりの主人公が登場する。
山中静夫(中村梅雀)は、末期癌で余命わずかと診断された。その時、心に湧き上がったのは、生まれ故郷の信州に戻り、最期を迎えたいという思いだった。
医師の今井(津田寛治)は、病気からの呼び出しに自宅から駆けつける。病室のベッドには家族に見守られながら、最期を迎えようとする患者がいる。医師でありながらも、既に手の施しようはない。そして、静かに息を引き取る患者の最期を看取る。その日々の繰り返しに医師は疲れていた。
映画で病というテーマを扱う時、デリケートな問題が発生する。その対象は老若様々になり、状況としては、闘病ものでも、試練を乗り越えて快方に向かうものもあれば、死に至るまでを直視するものもある。そういう時によく言われるのが、現実からの乖離であろう。特に、直面する体験をした人たちの当事者意識からは、状況が甘いとか、所詮は綺麗事にしか描かれていない、などの批判が発生する。これは至極真っ当な意見で、それに言葉を挟む余地はない。
山中は生まれ育った故郷の山々(長野県佐久市)を見ながら最期を迎えたいと訴える。今井は家族の負担も考え、自宅のある静岡の病院での治療を薦めるのだが、山中の意思は固く、受け入れを決断することになる。
山中静夫氏には、決められた生き方、あるいは死に方の道筋が決定されてしまっている。主治医となる今井がそれを正しく尊厳するのだが、山中の妻(高畑淳子)との間には、はじめは受け入れ難い距離が存在する。それは、受け手である観客が感じる違和感と同意で、山中の姿がわがままと見えることである。
今井医師は繰り返されるお見送りに疲弊している。患者と対峙する誠意の殻が、厳しい現実によって剥がされていく。
ふたりの交流の中に見えるのは、死に方の提示にとどまらない。生き方についての問いかけがある事が、この映画に厚みを持たせている。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。