岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

同性間であろうと違わない恋愛のかたち

2020年03月05日

his

©2020 映画「his」製作委員会

【出演】宮沢氷魚、藤原季節
【監督】今泉力哉

息づかいと匂いを身近に感じ取れる幸福

 今泉力哉監督による同性カップルの話の映画化には、意外と杞憂が先行した。恋愛映画の旗手という評価が定着しつつあるのに、ヘテロの匂いしかしないのに…単なる方向転換か?

 光溢れる朝、窓のカーテン越しに眩しい朝陽が射し込む。ベッドで男がふたり、背中合わせで眠っている。耳元で囁く、ジャレあいのあと、互いのセーターを交換して着込む。ひとりが唐突に「別れようか?!」と切り出す。「エッ?」と疑問符で返すしかない…哀しい朝の別れ。

 それから8年。井川迅(宮沢氷魚)は都会生活を捨て、岐阜県白川村に移住してきた。畑に作物を植え、わずかばかりの収穫を得る。近所の猟師から猪肉を分けて貰い、ひとりで食事の支度を済ませる。誰もいない古民家で孤独な生活を送っている。そこに、別れた日比野渚(藤原季節)が娘を連れて現れる。 最近では、同性のカップルを描いた映画はごく普通に存在するようになったが、根強い偏見があった時代には、同性愛を描いた物語は、結末が悲劇でなければならないという鉄則があり、タブーを許さないという強情さがあった。

 迅と別れた渚はプロサーファーを目指しオーストラリアへ渡ったが挫折、そこで通訳として働く玲奈(松本若菜)と出会い、結婚して、娘の空が生まれた。キャリアを活かしたい玲奈をサポートするかたちで、渚は子育てに専念する主夫になる。しかし今、夫婦には亀裂が生じ、離婚の協議が進んでいるという。そんな時、玲奈が空を連れ戻しにやって来る。

 ゲイであることを隠し、逃げるようにして山村にやって来た迅の孤独。それを支えてくれる村人たちの温かさ。穏やかな生活も渚と空の登場によって、次第にざわめき立つ。別れを乗り切り再び迅を求める渚。それをエゴだと一度は拒む迅。ふたりの感情が修復されて行く過程が繊細に描かれ、当初の杞憂を払拭する。

 日本映画には珍しい親権を争う離婚裁判が、そつなく描かれていることも特筆に値する。

 そして、ラストショットの優しさには震えた。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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