岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

哲学的な要素を持った記録映画

2020年02月28日

ドルフィン・マン ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ

©2017 ANEMON PRODUCTIONS/LES FILMS DU BALIBARI/GREEK FILM CENTRE/IMPLEO INC./STORYLINE ENTERTAINMENT/WOWOW

【出演】ジャック・マイヨール、ジャン=マルク・バール、ドッティ・マイヨール、ジャン=ジャック・マイヨール、成田均、高砂淳二、ウィリアム・トゥルブリッジ ほか
【監督】レフトリス・ハリートス

どこまでも深く青い海は、母親の胎内なのかもしれない。

 本作は『グラン・ブルー』のモデルとなったジャック・マイヨールを描いたドキュメンタリーで、彼がなぜ海に魅入られフリーダイビングを始めたのか、そして最後はなぜ自死したのかを考えさせられる、ある種哲学的な要素を持った記録映画である。

 普段はプレイボーイのドン・ファンで世俗的でもある彼が、一旦海へ潜ると、人からヒトへと変わる。少年時代に唐津の海で見た海女さんや、マイアミの水族館で出会ったイルカのように、海と一体化するのである。

 素潜りで潜水すると、水深が深くなるにつれ肺が圧迫される。60メートルを超すと、脈拍は毎分26回になることが分かる。静寂の海の中を無呼吸で潜っていくマイヨール。生と死の境界の間でトランスの状態を体感する。

 彼は呼吸を長く止める訓練の中で、子どもの頃から興味を持っていた、ヨガや禅などの東洋思考を身につけていく。特に座禅は、西洋における何かを達成するための「瞑想」でなく、ただただ座り思考を停止するという行為だ。無の境地となり、そこでやっと悟りを得る。朝からコーンフレークを食べるような、煩悩の塊の我々とは違うのだ。

 人間社会はストレス社会である。マイヨールのような自由奔放な人間は、社会生活の外に身を置き、一般人からは羨ましい人生を送っているように見えるが、実は孤独の淵にあったのかもしれない。

 海の申し子のようなマイヨールが、潜水に失敗する。家族とは疎遠になり、恋人とは不慮の事故で死別する。彼の心の中はボロボロになっていったのであろう。「海にとって、世界で一番不要なのは人間だ」と悟ったのか、自然への回帰を願ったのか、彼は自死する。

 レフトリス・ハリートス監督は、今に生きる様々な証言者のインタビューを中心に、貴重なドキュメンタリーフィルムを効果的に織り交ぜて、ジャック・マイヨールの実像に迫っていく。どこまでも深く青い海は、母親の胎内なのかもしれない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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