岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

敵は味方の中にありという皮肉

2020年02月18日

フォードvsフェラーリ

©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

【出演】マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、トレイシー・レッツ、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ
【監督】ジェームズ・マンゴールド

実在の人物を題材にした迫力満点のレース

 この映画は単なるレーシングカーの物語の枠を越え、あるプロジェクトを成功させるための過程、秘訣、胆力などについて考えさせられる。組織の中で、別の組織をどう立ち上げるか?最小の投資で最大の成果を収めるにはどうしたらいいか?1960年代半ば、大衆車しか作ってこなかったフォード社がル・マン24時間レースでフェラーリに対抗する車を作ると決めたとき、彼らはどのように動いたかをこの映画は見せる。

 しかしながら、最大の敵は社外ではなく、味方の中にいるという世の中の皮肉。フォード社の取締役会末席にいて何かと主人公らの助けや支えとなる人物にアイアコッカがいる。映画ではただそれだけの役割で何の説明もないが、その後同社を退職し、破産寸前のクライスラー社を立て直した伝説の人物だ。1980年代にベストセラーとなった自伝も読んだが、あの人物の若き日かと感慨深かった。

 2時間半近くの長い映画だが、乞われてプロジェクトを立ち上げたマット・デイモンと彼に見いだされドライバーとなるクリスチャン・ベイルの友情物語でもある。ただ、この2人にフォーカスが当てられた分、周辺人物の掘り下げは浅い。最後のレースも主人公らの外部委託チーム以外にフォード社生え抜きチームの車2台も出場していたことなど経過が描かれないので、後でそうだったのかと思わせるだけ。

 なぜF1ではなくル・マンなのかとか、レーシングカーや車全般に関する知識も無いのでよく分からない部分も多々あるものの、レースの迫力や車の爆音など細部にも目が行き届き、ドライバーを支える妻や子供の目線も切なく捉え、水準以上の佳作と言える。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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