岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

米国版『ある結婚の風景』

2020年02月04日

マリッジ・ストーリー

【出演】スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー、ローラ・ダーン、アラン・アルダ、レイ・リオッタ、ジュリー・ハガティ、メリット・ウェヴァー、アジー・ロバートソン
【監督・脚本】ノア・バームバック

離婚訴訟は常に泥沼化するということか

 監督ノア・バームバックの実体験が基になっているらしいが、本作を観てベルイマンの『ある結婚の風景』(1974年)を思い出さざるを得なかった。新婚の頃はアバタもえくぼだが、落ち着いてくるとお互いの欠点が目立つようになり、倦怠期を迎えようなものなら、やがて顔を見るのも嫌になる。経験者なら誰しも思い当たるだろう。ベルイマンは1時間ドラマを6話計6時間で『ある結婚の風景』を作り、編集し直して映画版は2時間50分とした。本作は夫役のアダム・ドライバー、妻役のスカーレット・ヨハンソンが時に荒々しく、時に繊細な表情を垣間見せ好演。全体のトーンがベルイマンの先行作に似ている。

 映画の圧巻は、狭い室内でドライバーとヨハンソンの2人による丁々発止の掛け合いだろう。カメラの長回しで一気にセリフを言わせる。何度テイクを撮ったのか知らないが相当な体力、気力を要したのは想像に難くない。

 2人の問題に弁護士が加わると急に過激かつ金銭絡みになるのが米国らしい。妻が階段でふらついた時、法廷ではアル中の一歩手前と誇張され、夫が車のチャイルドシートの備え付けで悪戦苦闘すれば、普段育児を何もしてこなかった証拠に挙げられる。高額な離婚専門訴訟の弁護士は時給1000ドル近くを請求するらしいが、貧乏人は離婚もできない。良心的な弁護士をアラン・アルダが演じ、離婚訴訟の裏側を説明してくれる。

 本作はネット配信会社による製作だが、大手映画会社ではこのような濃密な人間ドラマは採算に合わなくなったということかも知れない。マーベルやDCなどコミック原作のヒーローものか、ディズニーアニメか、そんな映画ばかりでは悲しい。  

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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