岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

心揺さぶる真の社会派映画の傑作

2020年01月24日

家族を想うとき

©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

【出演】クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
【監督】ケン・ローチ

妥協なく現実を見つめるケン・ローチ監督の問いかけ

 社会派という括りがある。それは映画に限ったものではないが、映画には娯楽という”枷“があるため、伝えようという想いの重さによって、特異で崇高な印象となることが多い。であればこそ、告発以前に現実を見つめた物語であることが重要である。

 ケン・ローチ監督の映画には、現実から目を逸らすことのない強情さがある。前作の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、社会制度の理不尽さと社会構造が生み出してしまった流出民に目を向け、困窮する隣人に対する思いやりを描いた。理想主義だとか甘い幻想を持ち出せば一蹴されそうだが、ケン・ローチの揺らぐことのない視点は、それを許す隙を与えない。

 父リッキー(クリス・ヒッチェン)は転職を考えている。それは宅配の運転手で、配送会社に雇われるのではなく、個人経営者として契約することで、収益を確保できると誘われたものだった。

 母アビー(デビー・ハニーウッド)は介護福祉士として働いている。派遣の形態で動くのではなく、その日に乞われた個人の元へ直接出向くというもので、臨機応変とは無縁な現場対応の仕事は、時間に追われる結果を招いていた。

 夫婦には2人の子供がいて、長男セブ(リス・ストーン)は不登校で、落書きを表現とする仲間たちと連んでいる。妹のライザ(ケイティ・プロクター)は家族の中に渦巻く軋轢、父と兄の喧嘩に心を痛めていた。

 父は転職を決め、大型の運搬車を買うため、母の通勤車を売る決断をする。

 利益を追求する市場経済が生み出したのは、一見すれば合理的な発展型に見えるのだが、個人経営者となった父に課せられる毎日の仕事量は安易にこなせるものではなく、そのしわ寄せは全て個人に降りかかってくる。理不尽さに気付くとき、かつては幸福であった家族の根幹さえ崩れかけていた。

 映画は語る。ささやかな幸福の希求のために、人としての尊厳までを犠牲にするのかと…その問いかけはあまりに痛い。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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