岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

老女が決断する旅立ちへの支度

2020年01月26日

私のちいさなお葬式

©OOO≪KinoKlaster≫,2017r.

【出演】マリーナ・ネヨーロワ、アリーサ・フレインドリフ、エヴゲーニー・ミローノフ、ナタリヤ・スルコワ、セルゲイ・プスケパリス
【監督】ウラジーミル・コット

独居でも孤独でもない 人の温かさに救われる佳作

 病院の診察室、医師と対峙するエレーナ(マリーナ・ネヨーロワ)は検査結果を告げられる。「心不全の兆候がある…いつ、止まってもおかしくない」随分と残酷な告知だと思っていると、本人はそれを余命宣告と受け取る。

 ロシアの小さな田舎町で長く学校の教師を勤めて、定年退職後は慎ましい年金暮らし。都会で離れて暮らすひとり息子のオレク(エヴゲーニー・ミローノフ)は、もう5年も帰ってこない。エレーナは誰の手を煩わせることのないように、旅立ちの支度を画策する。

 エレーナの周りのコミュニティは、住んでいた町と同様に小さい。そこには教師時代の教え子たちがエレーナ先生のことを気にかけてくれる。

 自らの死亡証明書を交付してもらう役所での女性職員との問答や、遺体安置所の教え子の監察医とのやりとりは寸劇コントのようで、エレーナの突拍子もない行動をブラックコメディの味付けで緩和して見せている。

 隣に住むリューダ(アリーサ・フレインドリフ)はぶっきら棒で愛想もないが、何よりもエレーナのことを気にかけている。母親を放ったらかしにしているオレクに厳しい注文をつけ、親の大切さを諭す。 都会に住み仕事に追われる生活をしているオレクは、5年ぶりの帰郷にも、母親が背負う問題にも、深入りをしたくない逃げが優先してしまい、親子の間にある溝は埋まることはない。

 『私のちいさなお葬式』には、どこの国にも共通する家族拡散と、地域格差によって生まれる独居老人の孤立を提示している。しかし、周囲はそれを見捨てることはしない。そこに見える交流には暖かい空気感があり、深刻さを忘れさせるほっこりした雰囲気があることに救われる。

 挿入歌として、日本でも昭和の時代に”ザ・ピーナツ"が歌ってヒットした、なじみ深い「恋のバカンス」が効果的に流れる。ロシア民謡のような旋律は郷愁へと誘う。

 教え子のひとりから、釣り上げた鯉を押しつけられるくだりは、エスプリが効いていて秀抜だ。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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