岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

私の2019年外国映画ベストワン

2020年01月24日

家族を想うとき

©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

【出演】クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
【監督】ケン・ローチ

日本にもそのまま当てはまる辛く厳しい映画

 イギリスは、第二次大戦後「ゆりかごから墓場まで」のスローガンのもと社会保障制度が次々と強化され、「福祉国家」の典型と言われてきた。しかし「英国病」と揶揄された経済の停滞により、サッチャー政権誕生後は方針転換が行われ、新自由主義政策の導入と様々な福祉政策の財政削減で、福祉サービスは機能不全に陥っている。

 そのような状況の中で、ケン・ローチ監督は常に弱者の視点に立ち、労働者階級や市井の人々を主人公にした社会派リアリズムの映画を世に送り続けてきた。

 彼が引退を撤回してまで作った原題「Sorry We Missed You」は、不在連絡票の文言であると共に、文字通り家族に対して「ごめん、あなたに会いたかった」という意味も持ち合わせた秀逸なタイトルである。

 ターナー家の父リッキー(クリス・ヒッチェン)は自営業の宅配ドライバー。「働いた分だけ稼げる」という名目のもと、8時間労働制はもちろん雇用保険・有給休暇など労働者としての権利は一切なく、ただ一方的に搾取されるのみである。強欲資本主義が考え出した、非正規労働者・派遣労働者などの使い捨て労働力をさらに上回る、一度入ったら抜け出す事ができない蟻地獄労働者である。

 優しい母アビー(デビー・ハニーウッド)は、パートの介護福祉士。彼女が訪問する利用者の状況は一人ひとり違うのに、数をこなしていかなければ収益は増えていかないジレンマがある。でも彼女は利用者の頼みを決して無視することはない。

 日々の仕事に追われ子どもたちとのふれあいがなかなか取れない両親に対し、荒れる長男と不眠症の長女。仕事の合間をぬってたまに触れ合う親子の描写が、限りなく優しく愛おしい。

 資本家にとって都合よく、労働者にとっては実に不安定な働き方は、ワーキングプアをどんどん作り出していく。日本にもそのまま当てはまる辛く厳しい映画だ。私の2019年外国映画ベストワンである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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