岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

民族衣装アオザイをめぐるファンタジー

2020年01月21日

サイゴン・クチュール

©STUDIO68

【出演】ニン・ズーン・ラン・ゴック、ホン・ヴァン、ジエム・ミー、オアン・キエウ、S.T、ゴ・タイン・バン
【監督】グエン・ケイ/チャン・ビュー・ロック

戦争時代の暗雲を振り払う力強い女性の生き様

 舞台となるのは1969年のベトナムのサイゴンで、南北に分断されていた当時は、南ベトナムの首都であった。9代続く"アオザイ"の仕立て屋の娘ニュイ(ニン・ズーン・ラン・ゴック)は、ミス・サイゴンに選ばれるほどの美貌で、ファッションも流行の最先端であると自負していた。それは老舗を守る母(ゴ・タイン・バン)との確執の要因となり、事あるごとに母娘は対立していた。

 ニュイはある日突然、現代にタイムスリップする。そこで目にするのは、母の死後、すっかり寂れてしまった実家の仕立て屋だった。後継ぎ娘は新しいものばかりにとらわれて、伝統的な仕立ての技術の習得には無頓着だったから自業自得なのだが…追い打ちは、だらしない中年女に成り果てた自らとの衝撃の対面だった。

 "アオザイ”はベトナムの女性の伝統的な民族衣装で、結婚式や祭りなどのハレの日に用いられることが多い。その起源は紀元前700年ごろから紀元100年までに、ベトナム北部のデルタ地帯を中心に発展した青銅器時代のドンソン文化の頃とされる。その時代の祭祀遺物である銅鼓には、裾が前後2枚ずつ、計4枚に分かれたアオザイが文様として描かれている。後に、ベトナムは中国文化の影響を受けて、裾は大きく広がったものが増え、スカーフなどの装飾品を含めて、チャイナドレス化したこともあったが、現在では伝統を守り民族衣装として定着している。

 『サイゴン・クチュール』はタイムスリップもので、同じ時空に同一人物の老若の姿が存在するなどの矛盾点は散在するが、エンタテインメントに潔く徹したファンタジーである。1969年といえば、ベトナム戦争の真っ只中なのだが、そこにはその影すら見えない。ベトナム戦争には市街戦は少なく、戦いの場所は農村やジャングルだったと言われてはいるが、それにしてもである。映画の作り手である女性クリエイターたちが描きたかったのは、戦時下であろうともおしゃれを忘れない、というサイゴン市民の心意気なのかも知れない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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