岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

我々が知らなかった世界を妥協無く描いてきた周防監督の王道娯楽映画

2019年12月29日

カツベン!

© 2019「カツベン!」製作委員会

【出演】成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、徳井優、田口浩正、正名僕蔵、成河、森田甘路、酒井美紀、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代、山本耕史、池松壮亮、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊
【監督】周防正行

サイレント映画へのオマージュが随所に見られる

 1894~95年にエジソンやリュミエール兄弟が発明した映画は、1896~97年、早くも日本に輸入され大評判となっていた。なかでもスクリーンに投影して大勢で見るシネマトグラフは、興行当初から説明者がついていた(日本映画発達史・田中純一郎著より)。

 日本には義太夫の語りに合わせて操り人形を動かす人形浄瑠璃文楽という伝統芸能があるが、この形態を踏襲し、日本独自の話芸として映画を説明したのが活動弁士=カツベンだったのだろう。

 本作は、カツベン全盛の大正時代を舞台に、今まで我々が知らなかった世界を徹底したリサーチにより、細部までこだわりぬいたリアリティーで妥協無く描いてきた周防正行監督の王道娯楽映画だ。

 富国強兵の明治時代と、軍国主義の昭和前半に挟まれた大正時代は、大正デモクラシーとか大正ロマンなど、様々な社会運動や多様な文化、近代的な生活が花開いてきた時代である。

 映画は、若きカツベン青年・染谷俊太郎(成田凌)が勤める昔からある桟敷席の青木館と、新興でいす席のタチバナ館とが、弁士や客を取り合うというベタなお話。もちろんわざとベタにしてあるわけで、タンスの引き出しの開け閉めで笑わすスラップスティックや、人と人力車を使った追っかけなど、サイレント映画へのオマージュが随所に見られる。

 そもそも周防作品の常連・竹中直人の役名は、『ファンシイダンス』を除きすべて青木富夫で、これはサイレント時代に子役で活躍した「突貫小僧」の本名である。

 サイレント映画は1秒間に16コマだと認識していたが、本作を見ると、弁士の語りに合わせて早くしたり遅くしたり映写技師との阿吽の呼吸で上映しており、大正時代の日本映画は見世物の要素が強かった事がよく分かる。キネマ旬報ベストテンも日本映画の選出を始めたのは1926年(昭和元年)からだ。

 お勉強にもなって、楽しく気楽に楽しめるコメディ映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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