岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

女性翻訳家は村上文学の完璧な翻訳を目指す

2019年12月23日

ドリーミング村上春樹

©Final Cut for Real

【出演】メッテ・ホルム
【監督】ニテーシュ・アンジャーン

直訳という苦難を追ったドキュメンタリー

 毎年秋になるとざわめき立つ人たちがいる。酒場に集いその時を待つ。何年か続くお馴染みの光景となっているが、未だにあるのだからその時は訪れていないことになる。そこに集うのは"ハルキスト”と呼ばれる人たちで、ノーベル文学賞の受賞を心待ちにしている。

 村上春樹のデビュー作は1979年の「風の歌を聴け」(講談社)で「群像」新人文学賞を受賞した。同時期にその単行本を入手しているのは、受賞作という分かりやすい指針があったからだと思う。81年には大森一樹監督によって映画化もされた。第2作は「1973年のピンボール」で、翌年に発表されている。ここまでは意識的に購入したものだった。しかし、それ以後の作品が自室の本棚に並ぶ事はしばらくはなかった。

 『ドリーミング村上春樹』はデンマークの女性翻訳家メッテ・ホルムが、村上春樹の小説と格闘するさまを追ったドキュメンタリーである。村上春樹は創作活動と並行して、翻訳家としての仕事もよく知られている。レイモンド・カーヴァーを紹介し、全集のすべてを翻訳した。他にもフィッツジェラルド、カポーティ、サリンジャー、チャンドラーといった現代アメリカ文学を広く手がけている。そこで気付くことは、彼の文体が翻訳においても、そのままの形をとどめることだ。村上の小説が他国語に翻訳されたのは「羊をめぐる冒険」(講談社)が、89年に英訳されたのが最初である。

 村上春樹の文体は平易と表現されることが多い。台詞にある諭すような優しさも印象的だ。ただ、ストーリーは難解で、突然登場する特異なキャラクターに面食らうことがある。

 87年に発表した「ノルウェイの森(上・下)」は空前のベストセラーとなる。かつてあった拒否感はなくなり、埋め合わせと読み直しに没頭するのは、そのブームが下火になりかけた頃のことだった。

 メッテ・ホルムの仕事は日本語からデンマーク語への直訳である。この作業過程は珍しい。だからこそ、健気に直向きに、完璧を目指す彼女は少し遠回りになる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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