岐阜新聞 映画部

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ベテラン翻訳家の仕事を通して、村上ワールドを海外からひも解いたユニークなドキュメンタリー

2019年12月23日

ドリーミング村上春樹

©Final Cut for Real

【出演】メッテ・ホルム
【監督】ニテーシュ・アンジャーン

二人三脚でのノーベル賞候補

 村上春樹氏がノーベル文学賞候補の常連であるのも、他言語に翻訳されて海外の人に知られているからだ。その外国語訳が、直訳で翻訳調のような文章であったら候補に挙がったかどうか分からない。彼独自の表現方法や世界観をできる限り忠実に表現するために、翻訳者が日本語の持つ意味を分析し、作者の意図や背景を理解してこそ、村上ワールドを他言語で表現できる。言ってみれば彼がノーベル文学賞候補となりうる重要な裏方なのだ。

 本作は、村上春樹氏の小説をデンマーク語に訳すベテラン翻訳家メッテ・ホルムの仕事を通して、村上ワールドを海外からひも解いたユニークなドキュメンタリー映画である。

 彼女が手掛けている村上春樹氏のデビュー作「風の歌を聴け」。この中に登場する文章“完璧な文章などというものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。”の一文を巡って、彼女は試行錯誤を重ねる。日本語の原文から直接訳す彼女は、“文章”という語を“sentence”とするか“text”とするかで熟慮し相談する。どんな単語が適切か、日本語の語感と違っていないかなど、慎重に言葉を選んでいく。

 そして、彼女は日本へやってくる。村上春樹氏が描いた街、住んだ場所を1人で訪れる。夜の日本のファミレスに居酒屋にタクシーにピンボール。乗り合わせたタクシー運転手や隣に座ったおじさんなどとは言葉を交わす。

 彼女のイマジネーションにあるのか、はたまた村上ワールドの並行世界(パラレルワールド)なのか、映画には村上氏の小説の一節を朗読する「かえる君」が登場する。空には月が2つ浮かんでいる。

 メッテ・ホルムの思い入れは、彼女が村上文学のファンであると共に、村上氏がフィッツジェラルドやサリンジャーなどアメリカ文学の翻訳を継続的に手掛けており、翻訳者の苦労や大切さを分かってくれている事が、優れた翻訳に繋がっている。二人三脚でのノーベル賞候補なのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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