岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

一見シンプルに見える中に、実に深い内容が描かれている

2019年12月06日

真実

©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

【出演】カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル
【監督・脚本・編集】是枝裕和

是枝監督の演出力はもちろん、ドヌーヴを出演させた交渉術にも舌を巻く

 本作は、フランス人なら誰もが知る大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が書いた自伝を中心に話がスタートする。脚本家の娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)をはじめとする彼女に関係してきた人達は、あまりにも本人に都合よく描かれている事に対して、反発したり怒ったり去っていったりする。果たして真実とは何か?である。

 この映画、何気なく観ているとサラサラっと流れてしまう。「いつもの是枝映画とは違う。深くない。」と思う方もいるとは思うが、そこは是枝裕和作品。一見シンプルに見える中に、実に深い内容が描かれているのだ。

 母娘関係、まずは現在のファビエンヌとリュミールのリアルな関係。大女優の母に対して、女優を諦めアメリカへ渡り脚本家になった娘。母のように公私ともに女優を演ずることができない弱さがあり、コンプレックスとなっている。当然であるが、母娘の年齢差は変わらない。

 一方で、劇中劇での母娘関係は「母は宇宙で暮らし年齢が増えない」というSF的設定のため、年齢が逆転していく。ファビエンヌがずっと意識していた親友で、若くして亡くなったサラの再来と言われている新進女優マノン(マノン・クラヴェル)が年齢の変わらない母を演じ、ファビエンヌは母の年齢を追い越した晩年の娘を演じる。

 自分より、女優としてもリュミールの母親代わりとしても優れていたサラに嫉妬し、弱さを見せないために、大女優という役割を演じ続ける。亡くなっているのでサラは若いまま。ファビエンヌにはとても残酷な劇中劇なのである。

 娘は母から逃げ、母はサラから逃げている。その事実から目を背けるために、それぞれの「真実」を作り出しているのだ。

 それにしても、ドヌーブがドヌーブ自身を演じているような役柄であり、独善的で皮肉家で高慢ちきな役をよく引き受けたものだ。是枝監督の演出力はもちろん、交渉術にも舌を巻く。いつも通りの是枝映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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