岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

家族の葛藤というテーマにしては生煮え

2019年12月06日

真実

©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

【出演】カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル
【監督・脚本・編集】是枝裕和

大女優の告白本は嘘だらけという真実

 監督是枝裕和がフランスで撮った新作は、期待外れな出来と言わざるを得ない。最大の瑕疵は中途半端な脚本。次いでキャスティング。まず脚本だが、国民的大女優の母親(カトリーヌ・ドヌーヴ)に対し、出版された自伝には真実が書かれていないと詰め寄る娘(ジュリエット・ビノシュ)の確執が主軸のストーリーなのだが、ドラマとして全く盛り上がらない。その理由は、母親が現在撮影中のSF映画の中で、新進女優とも母と娘の対立構造を生むという二重の確執が明らかになり、主のストーリーが薄められてしまうことにある。撮影スタジオのシーンは最初単なる背景かと思ったら、けっこう時間的には長い。ベルイマンの『秋のソナタ』(1978)のような映画を期待したら、そうした濃密なドラマにはならない。

 ドヌーヴと同居する内縁の夫状態のイタリア人シェフ、自伝に自分のことが書かれていないとむくれて家を出る付き人、突然現れる別れた夫、3人の男性の描き方も不十分で影が薄い。キャスティングは母親、娘、娘婿の3人があまりに有名すぎて他の配役と著しくバランスを欠く。この3人が出てくるシーンと他の登場人物のシーンの温度差が大きい。ジュリエット・ビノシュは年4~5本も出演作のある売れっ子だが、この映画では冷めた印象しかない。監督に企画を持ち掛けたにしては、熱演には程遠い演技しか見せない。

 付き人は『オリエント急行殺人事件(1974)』のサー・ジョン・ギールグッドに似てるね、というセリフが冒頭にあり、映画的記憶やギャグに溢れるのかと思ったら、ドヌーヴの役どころであるファビエンヌという女優の主演作の題名など全く架空の作品だ。まあそれも当たり前なのだが、真実も虚構も曖昧なのだという半端な後味しか残らない。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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