岐阜新聞 映画部映画館で見つけた作品命みじかし、恋せよ乙女 B! 絶望した男の自分探しの日本への旅 2019年11月04日 命みじかし、恋せよ乙女 ©2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG 【出演】ゴロ・オイラー、入月絢、樹木希林 【監督】ドーリス・デリエ 樹木希林登場後に散りばめられた日本へのリスペクト ミュンヘンに住むカール(ゴロ・オイラー)は悲しみのなかにいた。アルコール依存症により仕事も失い、一度は再起を期待した家族をも裏切り、娘を連れた妻からは三行半を突きつけられた。救いようもない男の可哀想な泣き顔。 そんなカールの元に、ユウ(入月絢)と名乗る日本人女性が訪ねてくる。その訪問に戸惑うカールだったが、ユウは10年前に日本を訪れたカールの亡き父親のルディと親交があり、墓参りと彼の住んだ土地と家を見に来た、という言葉には説得力があった。不思議な魅力を放つユウに対する猜疑は興味に変わり、次第に打ち解けていく。 誰もいないカールの生家。そこには父母の生きた証が、いたるところに息づく。そしてカールは、両親がいつも居た部屋でふたりの亡霊と対峙する。アルコール依存症にまで転落したカールの心の傷が、両親との間にあったトラウマであることは何となく分かるが、それが明確に描かれるわけでもなく、映画はカールの精神的な迷宮と同化してしまう。 唯一の心の支えとなっていたユウは、いつの間にか姿を消してしまう。精神的に不安定になったカールは森に飲み込まれ、瀕死の状態で病院に収容される。ベットの上で目覚めたカールは凍傷により男性器を失ったことを知る。 監督のドーリス・デリエは1955年ドイツに生まれ、アメリカの大学で俳優の勉強をした後、ミュンヘンのテレビ・映画大学で学んだ。85年に東京映画祭に出品したのをきっかけに、禅、漁師、福島といった題材で、日本に関わる作品を完成させている。 身も心も傷ついたカールは、消えたユウを捜すために日本へ向かう。そして、ユウの祖母が営む茅ヶ崎の旅館にたどり着く。祖母を演じるのが樹木希林で、混沌とした幽玄世界を解き明かす案内人となるのだが、観念で絡まった糸が解れることはない。 旅館は実在の茅ヶ崎館が使われている。十数年前に一度宿泊したことがあるが、その時の記憶が、一瞬、雲間から見えて懐かしさに誘ってくれた。しかし、映画の物語の暗雲は晴れることなく終わる。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 89% 観たい! (8)検討する (1) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2021年01月18日 / クローゼット 孤独な人と寄り添う人を描いた不思議な映画 2021年01月18日 / クローゼット 誰にも言えないグチや悩み、「添い寝屋」で少し楽になりませんか? 2021年01月16日 / 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 高いクオリティー、物語に没入できるよう仕掛けは完璧 more 2020年09月30日 / 新宿武蔵野館(東京都) 創設百周年を迎えた新宿の伝説的映画館 2019年07月03日 / 有楽町スバル座(東京都) 日本初のロードショウ劇場として名作を送り続けてきた 2018年05月30日 / 名古屋シネマテーク(愛知県) 作り手も観客も映画と真剣に向き合える映画館 more
樹木希林登場後に散りばめられた日本へのリスペクト
ミュンヘンに住むカール(ゴロ・オイラー)は悲しみのなかにいた。アルコール依存症により仕事も失い、一度は再起を期待した家族をも裏切り、娘を連れた妻からは三行半を突きつけられた。救いようもない男の可哀想な泣き顔。
そんなカールの元に、ユウ(入月絢)と名乗る日本人女性が訪ねてくる。その訪問に戸惑うカールだったが、ユウは10年前に日本を訪れたカールの亡き父親のルディと親交があり、墓参りと彼の住んだ土地と家を見に来た、という言葉には説得力があった。不思議な魅力を放つユウに対する猜疑は興味に変わり、次第に打ち解けていく。
誰もいないカールの生家。そこには父母の生きた証が、いたるところに息づく。そしてカールは、両親がいつも居た部屋でふたりの亡霊と対峙する。アルコール依存症にまで転落したカールの心の傷が、両親との間にあったトラウマであることは何となく分かるが、それが明確に描かれるわけでもなく、映画はカールの精神的な迷宮と同化してしまう。
唯一の心の支えとなっていたユウは、いつの間にか姿を消してしまう。精神的に不安定になったカールは森に飲み込まれ、瀕死の状態で病院に収容される。ベットの上で目覚めたカールは凍傷により男性器を失ったことを知る。
監督のドーリス・デリエは1955年ドイツに生まれ、アメリカの大学で俳優の勉強をした後、ミュンヘンのテレビ・映画大学で学んだ。85年に東京映画祭に出品したのをきっかけに、禅、漁師、福島といった題材で、日本に関わる作品を完成させている。
身も心も傷ついたカールは、消えたユウを捜すために日本へ向かう。そして、ユウの祖母が営む茅ヶ崎の旅館にたどり着く。祖母を演じるのが樹木希林で、混沌とした幽玄世界を解き明かす案内人となるのだが、観念で絡まった糸が解れることはない。
旅館は実在の茅ヶ崎館が使われている。十数年前に一度宿泊したことがあるが、その時の記憶が、一瞬、雲間から見えて懐かしさに誘ってくれた。しかし、映画の物語の暗雲は晴れることなく終わる。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。