岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

狂気は如何にして生まれるかを問う問題作

2019年10月27日

ジョーカー

©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

【出演】ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ
【監督・共同脚本・製作】トッド・フィリップス

現代の世相を反映するダークな世界観

 トッド・フィリップス監督作は今まで観たことがなかったので、本作の鑑賞前に『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』、『デュー・デート 出産まで5日!史上最悪のアメリカ横断』、『ウォー・ドッグス』の3本をレンタルで見た。共通するのはコメディ映画だという点だが、本作は全く違う。平凡な男がふとしたことから殺人を犯し、群衆から悪のヒーローに祭り上げられる顛末を描いている。今年のベネチア映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞したが、米国のメジャースタジオ(本作はワーナー)が受賞するのは極めて稀で、この点でも注目した。

 脚本は監督自身とスコット・シルヴァーの共同。個人的な推測に過ぎないが、本作の創作の源は『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒース・レジャーにあると思う。同作であまりに狂気に満ちた悪役を見事に演じ、役柄から抜け出せず薬物過剰摂取で亡くなったが、レジャーの演技を見ると彼が創造した役柄はどのようにして誕生したのか、創作意欲が湧いたに違いない。

 時代設定は明らかにされていないが、70年代のニューヨーク(物語上はゴッサムシティ)が舞台。病院職員の机上には古ぼけたタイプライターが置かれており、パソコンも携帯電話もない時代。ブルース・ウェインはまだ子供で両親は健在。彼らは脇役に過ぎない。映画はいかにしてジョーカーの狂気が生まれたかに焦点を当てている。平凡な母親思いの独身男が格差と犯罪と悪意にさらされた時、それは社会の責任ではないのか、と問うている。

 地下鉄内で最初の殺人を偶発的に犯した後、ジョーカーは出口近くの公衆便所の鏡の前で一人ダンスを踊る。スローモーションのカメラに重厚な弦楽器の音楽がかぶさる。ジョーカーの狂気の誕生の瞬間が華麗な映像で描かれる。本作で最も印象に残ったシーンだ。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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