岐阜新聞 映画部

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巨匠マイク・リー監督のディスカッション歴史政治映画

2019年10月25日

ピータールー マンチェスターの悲劇

© Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

【出演】ロリー・キニア、マキシン・ピーク、デイヴィッド・ムーアスト、ピアース・クイグリー
【監督・脚本】マイク・リー

民主主義の危機である現代に、強いメッセージを発信している

 本作は、今からちょうど200年前の1819年、北部イングランド・マンチェスターで起こった、選挙法の改正を求める民衆を武力で弾圧した史実「ピータールーの虐殺」を描く、巨匠マイク・リー監督のディスカッション歴史政治映画である。

 経済のグローバル化や富の集中、それによる格差の増大は、本来果たすべき民主主義の役割を形骸化しつつある。トランプ大統領の強圧的な政治、香港のデモ弾圧、日本の国会を軽視した官邸主導のやり口。

 議会制民主政治の模範と言われてきたイギリスも、独自の経済政策の決定や流入する移民の制限などを理由に、国民投票で「EU離脱」を決めたものの、前に進めずグダグダになっている。マイク・リー監督は、民主主義を獲得するために流れた幾多の血に思いを馳せ、民主主義の危機たる現代の状況に、徹底したディスカッション映画を作る事で、強いメッセージを発信している。

 ナポレオン戦争におけるイギリスの勝利により、解決に導いた支配階級のウェリントン公爵には75万ポンドの報酬が与えられた。一方、戦闘に駆り出された労働者階級は、戦後の穀物高騰や賃金の引き下げにより生活は困窮化し、勝利の余韻に浸るどころではなかったのである。

 まずは男性労働者の選挙権獲得が先決と、ジョセフ(デイヴィッド・ムーアスト)たちは演説の名手ヘンリー・ハント(ロリー・キニア)を招き、非武装で平和的な集会を開こうとしたのだが、スパイによる民衆の扇動と一部の跳ね上がり者による投石から、支配階級による武力弾圧の口実を作ってしまう。権力の狡猾さが牙をむいてくるのだ。

 民主主義は面倒くさく、納得するのに時間がかかる制度である。安直な武力や暴力に訴えず、徹底的な議論を重ねる事で多くの人の幸せを実現できる。民主主義の原点たるこの悲劇を再確認し、勝ち取った市民の権利の大切さを訴えた、今に通じる歴史劇である。イギリスの再生を信じたい。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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