岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

繊細で大胆!深田作品の最高峰

2019年10月20日

よこがお

©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

【出演】筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤連、小川未祐、吹越満
【編集・監督・脚本】深田晃司

ミューズが輝くとき映画も輝く

 深田晃司の映画にはいくつかの伏せ字のようなものがある。映像なのだから伏せ字ではなく、隠し絵を辿る伏線、と言うべきかも知れない。

 美容室へ向かう市子(筒井真理子)は指名した美容師の米田(池松壮亮)と対峙する。さりげない会話や市子の素振りから、何らかのいわくが感じ取れる。市子の一人住まいのマンションの窓から、隣接するマンションの様子が見える。そこに米田の存在があることがいわくの裏付けとなり、女性の影がそれを増幅させる。

 深田作品の時間の流れには不協和音がある。音楽ではないから不規則な交錯と言い換えたほうがいいのだろうが、映像の流れは音楽に似ていて、その変調と呼べる時間の自由な移行は心地良さに誘ってくれるし、底知れない怖れに引きずり込むことさえある。

 訪問看護師の市子は、その細やかな気配りの効く仕事ぶりで、同僚からも訪問先からも信頼されている。そのひとつ大石家では、介護福祉士を目指して勉強中の基子(市川実日子)にもアドバイスして、看護師という役割を超える感情が見え隠れし、基子が米田の部屋にいた女性と同一であることが分かり、意味は複雑化する。

 深田演出の妙は、役者の表情のとらえ方にある。会話のやりとりは目線が合う合わないで、感情のニュアンスに差が現れる。その一瞬の変化の匂わせ方は編集で生まれることが多い。その特徴のひとつにあげておきたいのは、カットのつなぎ目が一般的なものより一呼吸早く切り取られていることか?これはあくまでも私見だが…編集の切れ味は凄みを増す効果となる。

 映画は、大石家の基子の妹の行方不明により、大きな唸りの中に突入する。静かだった水面に悪意の小石を落とされてざわめき立つ市子の周辺は、弱者を蔑める邪悪な大衆によって濁り切ってしまう。投げ込まれた小石の存在に気付いた時、物語は市子が仕掛ける復讐劇へと転ずる。

 ラスト、世間に鳴り響くクラクションの激音は、市子の慟哭に変わる。そして、それは生きる決意にも聴こえ、見る者の心を揺さぶる。

 深田晃司監督のベストの仕事であり、深田映画のミューズ・筒井真理子の女優キャリアにも忘れられない作品となった。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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