岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

表面的事象だけでは捉えられない人間の本質を鋭く深く描く

2019年10月20日

よこがお

©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

【出演】筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤連、小川未祐、吹越満
【編集・監督・脚本】深田晃司

いつも刺激的で挑戦的な深田監督作品は、観客も受けて立ちがいがある

 深田晃司監督の映画は、いつも哲学的である。本作『よこがお』も、表面的事象だけでは捉えられない人間の本質を鋭く深く描いている。

 例えば、デカルトの「人の考えを本当に理解するには、彼らの言葉ではなく、彼らの行動に注意を払え」という格言の様に、リサという偽名を使った市子(筒井真理子)が、和道(池松壮亮)と知り合うきっかけを描いた冒頭をはじめ、言葉通りに受け止められないシーンが何度も出てくる。観客は己の思考や人生経験に基づき、言葉でなく行動を見て、人それぞれの解釈をする事ができるのだ。

 また、ヴォルテールの「寛容とは何か。それは人間愛の所有である。我々はすべて弱さと過ちから作られているのだ。我々の愚かしさを許し合おう。これが自然界の第一原則である。」という寛容論は、一筋縄でいかない人間の本質を、加害者と被害者という構図に縛られず、表裏一体で描いている。

 さらに視聴率や販売部数を上げるためには、なりふり構わず追いかける心無いマスコミに対する怒りを通して、それに追随するだけでモノゴトの本質を考えない世間の一方的極めつけや、不寛容な風潮にも警告を発しているのだ。

 そして、この映画の決定的トリガーは、市子が戸塚(吹越満)と婚約している事が分かった基子(市川実日子)が、嫉妬からマスコミに「誘拐犯は市子の甥である」とリークした事だが、これはソクラテスの「ねたみは魂の腐敗である」に通じる。妬みや僻みという厄介な感情は、時に理性を失わせるのである。

 ラスト、念願の介護福祉士になった基子を、車の中から見つけた市子。横断歩道で屈みこむ基子に対して、市子がアクセルを強く踏むのかどうかが映画のハイライトだが、市子がクラクションをパ~~~~ンと鳴らす長押し行為は、葬式の出棺の時と同じ意味であり、基子は市子の心の中では死んだのだ。

 深田監督の作品はいつも刺激的で挑戦的である。受けて立ちがいがある映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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