あの頃を知らない若者に講釈したくなる

　リック・ダルトン（レオナルド・ディカプリオ）はキャリアを重ねてきた俳優だったが、近頃はテレビの単発作品にしかお呼びが掛からない。キャスティングエージェント（アル・パチーノ）から声を掛けられるが、やんわりと方向転換することを薦められる。

　クリス・ブース（ブラッド・ピット）はリックの親友であり、長年にわたり彼のスタントを演じてきた。自信をなくして落ち込みがちなリックを支え、身のまわりのことにも甲斐甲斐しく世話を焼く。トレーラーハウスに愛犬ブランディと暮らすお気軽な独身生活だが、仕事には妥協がなく、納得できないことを平気で口走る輩に尻尾を振ることはない。

　舞台になるのは1969年のハリウッド。撮影所の雰囲気やファッションなどの風俗の再現のほか、一瞬見える風景にすぎない街並みをCGに頼ることなく復活させている。

　69年頃のハリウッドには“アメリカンニューシネマ”と呼ばれる、新しい映画製作を模索するムーブメントが発生していた。そこにはヌーヴェルヴァーグのような共同体が存在していたわけではないが、作品には反体制的なものが色濃く現れていた。代表作には、ヒッピーを主人公にした『イージー・ライダー』（デニス・ホッパー監督/69年/日本公開70年）がある。

　クリスは街で何度か遭遇した、ヒッチハイクをする若い女の子を棲家に送ることになる。行先は旧友であるスパーン（ブルース・ダーン）が経営する映画牧場だったが、そこは鼻持ちならないヒッピーたちに占拠されていた。

　タランティーノ映画の代名詞であるバイオレンスは抑制され、クリスがブルース・リーの挑発に立ち向かったり、スパーン牧場でヒッピーをやり込めるシーンには爽快感すら感じる。

　リックの家の隣に引っ越してくるのは、新進のポーランド人監督ロマン・ポランスキーと新妻シャロン・テート。運命の糸は繋がり、ラスト、弾けたように血なまぐさいアクションが炸裂するが、この結末は書けない。あまりに切ないタランティーノのハリウッド愛、映画愛が溢れ、胸が熱くなる傑作である。