岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

タランティーノの描くもう一つのハリウッド

2019年10月14日

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

【出演】レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット
【監督・脚本】クエンティン・タランティーノ

スタントマンとの友情よ、永遠に

 監督クエンティン・タランティーノの本作は、過去の監督作品に比べればひねりも毒もなく、1969年のハリウッドを回顧した映画に一見見える。当時はヒッピー文化全盛時。ベトナム戦争も終わりに近づき、フラワーチルドレンが都会に溢れる。主人公は落ちぶれつつある西部劇のテレビ俳優(レオナルド・ディカプリオ)とそのスタントマン(ブラッド・ピット)だ。この二人は架空の人物だが、彼らを取り巻く監督や俳優たちは実在の人物。隣に引っ越してきた映画監督ポランスキーとその新妻シャロン・テートは、当時ハリウッドのみならず全米を震撼させた「シャロン・テート事件」の渦中の人物。落ちぶれた俳優の悲喜劇なのかと思いきや、シャロン・テートの登場により一気に不穏な空気となる。ドキュメンタリーのように日時が刻々と画面に表示され、観客はいつそれが起きるのかとヒヤヒヤする。

 強面ながら情緒不安定なディカプリオとそれを慰める風来坊のようなブラピの友情は気持ちがいいが、後半のヒッピーらの拠点である牧場訪問あたりから緊張感が増していく。この映画はタランティーノ自らが身を置くハリウッドの夢物語だ。現実はこうであったらという願望に過ぎないが、それでも結末に文句を言う観客は少ないだろう。「シャロン・テート事件」を知らなければ、これが現実だったのかと思う者もいるかもしれない。

 映画ファンならばシャロン・テートが「テス」の初版本を本屋に受け取りに行ったり、端役として出た『哀愁の花びら』の女優名をなかなか当ててくれなかったりといった映画絡みのトリビアやギャグが楽しい。スティーヴ・マックイーンや若き日のブルース・リーは本当に良く似ている。ロスの街中の映画館にかかる映画の題名やポスターもそれらを目で追うだけで楽しい。初めに述べた通り、過去作に比べれば分かりやすい作りなので、まずは見たまま感じたまま楽しむのがいいだろう。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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