岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

歌と踊りが主体でないインド映画の秀作

2019年10月07日

あなたの名前を呼べたなら

©2017 Inkpot Films Private Limited, India

【出演】ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギータンジャリ・クルカルニー
【監督・脚本】ロヘナ・ゲラ

アメリカで学んだ監督は、インドの常識が世界標準ではないと知らせたかった

 ヒンドゥー教の身分制度であるインドのカースト制は、憲法により差別を禁止してはいるが、社会慣行としては今も根深く残っている。職業は細かく分類されていて世襲だし、異なる身分間での婚姻は許されないなど、基本的人権に関わる問題が事実上続いているという事だ。

 本作は、現状のインドではありえないという、ご主人様アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)とメイドのラトナ(ティロタマ・ショーム)が、男と女として恋に近いほどの心を通わせていくという物語だ。インドの人にとっては夢物語かおとぎ話にしか思えないだろうが、アメリカで学んだロヘナ・ゲラ監督は、インドの常識が世界標準ではないのだと知らせたかったに違いない。IT産業がインドで発展したのはカースト制に影響を受けない職業だからであるが、映画界からも一石を投じたのである。 

 映画の舞台はインド最大の金融・商業都市ムンバイ。農村出の未亡人・ラトナにとって、田舎よりも制約は少ない。夢はファッション・デザイナーだ。慎ましやかな生活とは真反対の世界。煌びやかな衣装で身を包み、自己表現をしていく。ファッションは女性の解放なのである。

 建設会社の御曹司・アシュヴィンはカースト上位の階級であるが、アメリカでライターをやっていた。きっと彼はアメリカ滞在中に、カースト制の矛盾を感じていたのかもしれない。だからこそ、身分を越えた恋に違和感を覚えなかったのだろう。

 映画は、カースト制の障壁に加えて、未亡人というハードルも課している。ヒンドゥー教では、夫に先立たれた妻は「男を死なせた不吉な女」として再婚はできず、様々な制約の中で生きていかねばならないらしい。こういった障害を乗り越えていくのが王道の格差ラブストーリーであるが、本作は現実があまりに重すぎるため、ラストで描かれた「お互いを名前で呼ぶ」のが精いっぱいなのだ。歌と踊りが主体でないインド映画の秀作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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