岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

マラウイの現況を丁寧に描くことで、主人公の偉大さが分かってくる

2019年09月14日

風をつかまえた少年

© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

【出演】マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガ、リリー・バンダ、フィルベール・ファラケザ、レモハン・ツィパ、ノーマ・ドゥメズウェニ
【監督・脚本・出演】キウェテル・イジョフォー

「Boys, be ambitious.(少年よ、大志を抱け)」がこれほどピッタリくる映画はない

 JICAによるとマラウイは「南部アフリカの平和的な安定国家であるが、国民所得は極めて低い。1,800万人の国民の約8割が小規模農家で、灌漑開発の遅れから天水農業を軸としており天候の影響を受けやすい」とされている。

 本作は、学費滞納で学校へも満足に通えなかった14歳の少年ウィリアム(マックスウェル・シンバ)が、図書館の本を頼りに、先生やお父さんの自転車の部品とゴミ捨て場にあった資材を使って、風車による自家発電で水を汲み上げる仕組みを作った実話である。

 この映画が単なる感動秘話になっていないのは、背景としてのマラウイの現況が丁寧に描かれているからだ。冒頭に記した概況はもちろん、世界的な気候変動による干ばつとインフラの遅れによる被害の拡大、熱源確保を目的とした森林破壊、義務教育が存在せず、授業料無償期間(13歳まで)が過ぎた後の中等教育などの問題が描きこまれているからこそ、彼のやった偉大さが分かってくるのだ。

 ウィリアムの父トライウェルは、融通が利かない頑固者で、兄から土地も相続できなかったが、大黒柱の誇りと意地だけはある。それでなのか、息子の話を子どもの夢想と決めつけ、聞く耳を持とうとしない。対して、ずっと我慢してきた母アグネスは「これ以上耐えられない。息子の頼みを聞くように」と説得する。そして、望みを叶えてくれた父に対しウィリアムは「学校に通わせてくれた」事を感謝する。

 映画は、困難を抱えながらも風車発電が実現していくまでの過程を分かりやすく見せてくれる。水が汲み上がり大地を潤していく時のみんなの歓声と笑顔は、観ているこちらも嬉しくなり素直な感動を呼ぶ。水は命の源なのだという事が改めて分かるのだ。

 「Boys, be ambitious.(少年よ、大志を抱け)」。札幌農学校のクラーク博士の名言が、これほどピッタリくる映画はない。文科省特選にふさわしい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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