岐阜新聞 映画部映画館で見つけた作品新聞記者 B! エネルギーを放つ傑作サスペンス 2019年08月30日 新聞記者 ©2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ 【出演】シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司 【監督】藤井道人 この映画はフィクションとして作られているが… 藤井道人監督の快進撃が止まらない。『デイアンドナイト』に次ぐ本作『新聞記者』は、近年皆無であった社会派エンターテインメントの大傑作である。本作がなにより素晴らしいのは、現在進行形の政界の闇に対して真正面から切り込んだその姿勢であろう。過去を見渡しても現在進行形の事件を扱った作品はほとんど無いため、それだけでも本作は映画史にその名を残すだろう。 興行収入しか考えない映画が横行している中にあって、こうした映画が公開された意義は大きい。興行収入より、製作すること自体に意義のある映画を作ろうという製作者の熱意が感じられる。そして、その製作者の姿勢や熱意が強力なエネルギーとなって、スクリーンからほとばしっている。このエネルギーを映画館という空間で体験できたことは嬉しい限りである。しかし、いくら姿勢が素晴らしくても内容が伴わなければ評価はできないが、本作は内容も出色の出来である。 主人公は新聞記者のエリカ(シム・ウンギョン)と官僚の杉原(松坂桃李)の2人だ。この2人の視点で展開することで、新聞社と政権の裏側を違和感なく等価に描写している。そしてある時、この2人の視点が1つにまとまることで、観客と主人公2人は同じ立場、同じ思いを共有することになる。観客が共有したこの時から政府の圧力が強まることでハラハラ、ドキドキ、サスペンスが一気に盛り上がる。 また、内閣情報調査室のシーンは無機質で冷淡な雰囲気で、新聞社のシーンは動きや熱気のある雰囲気で描き、それを捉えるカメラは主人公の内面表現も兼ねている。 このように、本作はエンターテインメント性を重視した作りをしている。先ほど「製作者は製作することに意義のある映画を作ろうとした」と述べたが、決して観客を置き去りにはしていない。この点が、本作を傑作へと昇華させている最大の要因である。 権力の腐敗、暴走を止められるのは国民しかいない。映画はそんな国民の側に立ち、権力を監視する一助になるべきである。この映画は見事にその役割を果たしたのだ。幸い、この映画はまだフィクションとして作られている。今後もこの映画がフィクションである世の中にしなければならないと思う。いや、すでにもうノンフィクションかもしれない…。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (15)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2021年01月18日 / クローゼット 孤独な人と寄り添う人を描いた不思議な映画 2021年01月18日 / クローゼット 誰にも言えないグチや悩み、「添い寝屋」で少し楽になりませんか? 2021年01月16日 / 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 高いクオリティー、物語に没入できるよう仕掛けは完璧 more 2019年06月05日 / シネ・ウインド(新潟県) 自分たちの観たい映画を自分たちの映画館で… 2019年09月04日 / 洲本オリオン(兵庫県) 瀬戸内海にある島に唯一残る映画館で映画を観る楽しみ 2020年12月23日 / 早稲田松竹映画劇場(東京都) 学生街に今も残る昔ながらの二本立て名画座 more
この映画はフィクションとして作られているが…
藤井道人監督の快進撃が止まらない。『デイアンドナイト』に次ぐ本作『新聞記者』は、近年皆無であった社会派エンターテインメントの大傑作である。本作がなにより素晴らしいのは、現在進行形の政界の闇に対して真正面から切り込んだその姿勢であろう。過去を見渡しても現在進行形の事件を扱った作品はほとんど無いため、それだけでも本作は映画史にその名を残すだろう。
興行収入しか考えない映画が横行している中にあって、こうした映画が公開された意義は大きい。興行収入より、製作すること自体に意義のある映画を作ろうという製作者の熱意が感じられる。そして、その製作者の姿勢や熱意が強力なエネルギーとなって、スクリーンからほとばしっている。このエネルギーを映画館という空間で体験できたことは嬉しい限りである。しかし、いくら姿勢が素晴らしくても内容が伴わなければ評価はできないが、本作は内容も出色の出来である。
主人公は新聞記者のエリカ(シム・ウンギョン)と官僚の杉原(松坂桃李)の2人だ。この2人の視点で展開することで、新聞社と政権の裏側を違和感なく等価に描写している。そしてある時、この2人の視点が1つにまとまることで、観客と主人公2人は同じ立場、同じ思いを共有することになる。観客が共有したこの時から政府の圧力が強まることでハラハラ、ドキドキ、サスペンスが一気に盛り上がる。
また、内閣情報調査室のシーンは無機質で冷淡な雰囲気で、新聞社のシーンは動きや熱気のある雰囲気で描き、それを捉えるカメラは主人公の内面表現も兼ねている。
このように、本作はエンターテインメント性を重視した作りをしている。先ほど「製作者は製作することに意義のある映画を作ろうとした」と述べたが、決して観客を置き去りにはしていない。この点が、本作を傑作へと昇華させている最大の要因である。
権力の腐敗、暴走を止められるのは国民しかいない。映画はそんな国民の側に立ち、権力を監視する一助になるべきである。この映画は見事にその役割を果たしたのだ。幸い、この映画はまだフィクションとして作られている。今後もこの映画がフィクションである世の中にしなければならないと思う。いや、すでにもうノンフィクションかもしれない…。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。