岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

シルクロードを彷徨うロードムービー

2019年08月28日

旅のおわり世界のはじまり

©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

【出演】前田敦子、加瀬亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ
【監督・脚本】黒沢清

ウズベキスタンで彼女が見つめたのは何か?

 不機嫌そうに見えるテレビクルー。リポーターの葉子(前田敦子)が、ジャージにペンギン(防水ズボン)をはき、湖に浸かったまま、カメラに向かって喋っている。“幻の怪魚”を求めて、というコーナーの撮影だと分かる。カメラマンの岩尾(加瀬亮)は淡々と仕事をこなす。ADの佐々木(柄本時生)は忙しく動き回る。ディレクターの吉岡(染谷将太)は、影も形も見えない怪魚に苛立っている。現地案内人のテルム(アディズ・ラジャボフ)は仲介に苦闘する。ピリピリとした雰囲気が、緊張を通り越した倦怠感をあたりにはべらせている。場所は、かつてのシルクロードの中心だったウズベキスタン。砂漠のような大地が広がる。

 クルーは怪魚探しを諦めて、異文化の探求にシフトチェンジする。チャイハナ(食堂)では名物料理の食レポを試みるが、提供された料理はろくに火も通っていない代物。それでも美味しそうな顔をしてカメラに笑顔を見せる葉子。仕事に対しての不安を抱えながらの葛藤は隠しきれない。宿泊先に着いた後は、日本にいる恋人と、しばしスマホでやり取りするのが安らぎのひととき。

 映画は葉子を淡々と捉えることに終始する。ひとりバザールへ出かけ迷子になったり、その路地裏で狭い囲いに繋がれた一匹のヤギに出会ったりするが、彼女の感情はどれも曖昧なまま。異国探索の旅への同行を強いられる時間が、傍観に徹するだけでは辛い。

 首都タシケントをはじめ、各地を巡る旅は、エキゾチックな風景と文化への接点を見つけるロードムービーとして成立してはいる。しかし、この作品のプロットには唐突感がつきまとう。葉子が何度目かの彷徨いの後たどり着いた劇場で、突然、何かに憑かれたように「愛の讃歌」を歌うという下りは、一体何なんだろう?

 世界の片隅で起こるひとりの女性との時間共有が物語としては儚く、すべて観る側に丸投げされる。不機嫌なテレビクルーたちと一緒に、地団駄を踏むしかないのか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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