岐阜新聞 映画部

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人間の弱さに温かい眼差しを注ぐ白石和彌の傑作

2019年08月16日

凪待ち

©2018「凪待ち」FILM PARTNERS

【出演】香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
【監督】白石和彌

中年男の不器用で無様な生き様を、圧倒的なリアリティーで演じる香取慎吾

 白石和彌監督の新作『凪待ち』は、ギャンブル依存症の男の破滅的な生き様を描いた人間ドラマの傑作だ。

 カレル・ライス監督、ジェームズ・カーン主演の『熱い賭け』をはじめとして、ギャンブル依存症の恐ろしさを描いた映画は世界中にあると思う。人間は弱いもので、ギャンブルに限らず、ダメだと分かっていても止められず、自分の人生を台無しにしてしまう者は少なからずいる。

 この『凪待ち』の主人公もギャンブル中毒から負の連鎖に陥り、何もかもを失いかける。その転落の人生のリアルで悲痛な描写は、『彼女がその名を知らない鳥たち』など人間の弱さに温かい眼差しを注ぎ続ける白石監督の真骨頂。

 脚本は『クライマーズ・ハイ』や『彼女の人生は間違いじゃない』の加藤正人のオリジナル。ストーリーは、中盤に主人公を絶望に突き落とす事件が起こるが、その犯人捜しの方に舵を切らず、主人公の後悔の念と喪失感を描くことに力を注ぐ。そして、彼の人生はますます泥沼に引きずり込まれていく。果たして、主人公に再生の日は来るのか。東日本大震災の被災地・石巻を舞台とすることで、この喪失と再生の映画はより深い意味合いを持つ普遍性を獲得している。

 『凪待ち』の中で一番驚かされるのは、主演の香取慎吾の迫真の演技。SMAP時代の彼からは想像できない、暗い薄汚れた中年男の不器用で無様な生き様を、圧倒的なリアリティーで演じている。また、助演の吉澤健の好演も印象に残る。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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