岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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フィクションを交えて描いた、知的好奇心を刺激する戦争映画

2019年08月14日

アルキメデスの大戦

©2019「アルキメデスの大戦」製作員会 ©三田紀房/講談社

【出演】菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし
【監督・脚本・VFX】山崎貴

果敢に挑む爽快さと力強さは、今の若者へエールを送っているかのよう

 史実をベースにイメージを膨らませ、空想や夢を織り込んで物語るのが歴史ロマン映画である。

 本作は、1937年の帝国議会で戦艦大和の建造が決定された史実と、当時海軍内で戦艦主体の「大艦巨砲主義派」と、主力を航空戦力とする「航空主兵主義派」が対立していた史実に基づき、大型戦艦建造を決定するプロセスにはこんな隠された事実があったのだとのフィクションを交えて描いた、知的好奇心を刺激するインテレクチュアルな戦争映画である。

 エリート集団だった日本海軍は、兵学校の卒業年次や成績順位でエリートコースが半ば決まり、その後の成長や人間性は重視されなかったらしい。実戦よりもペーパー試験の結果で幹部が決まっていく今の国の官僚組織にも似たこの指導者たちに、メジャーと数式で実証的に大和の致命的欠陥を証明していく若き天才数学者・櫂直(菅田将暉)。

 彼が感情論や精神論に流されず「数字」だけを武器にして、エリート海軍官僚たちに果敢に挑む爽快さと力強さは、若者の可能性を信じ今の若者へエールを送っているかのようである。

 驚くべきは大型戦艦の建造をめぐる海軍幹部の議論が、現在の箱もの行政の議論と何ら変わってない点である。それが必要であるかどうかという長期的視野と大局的見地にたった戦略よりも、造りたいかどうか、造れるかどうかという具体的方法を重視した戦術にウェートが置かれ、造りっ放しが多いこと。甘い見積もりで承認をとったあと、どんどん建造費・建設費が膨れ上がること。既得権益を守るためには手段を選ばないことなど数え上げたらきりがない。

 勇ましい言葉や美しいフォルムでデコレーションし、実際の数値をごまかしていく。戦前の海軍内部を描いていたら、現在にそっくりそのままあてはまるというのが、鋭くもあり情けなくもあるのだ。

 重厚な演技の大御所俳優に対し、飄々とした演技で渡り合う菅田将暉。異色の戦争映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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