岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

戦艦大和に挑んだ男の静かな闘い

2019年08月14日

アルキメデスの大戦

©2019「アルキメデスの大戦」製作員会 ©三田紀房/講談社

【出演】菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし
【監督・脚本・VFX】山崎貴

情熱は説得力を生み人を動かすこともできる

 原作は2015年からヤングマガジン(講談社)に連載されている三田紀房の漫画で、現在16巻まで単行本化されている。山本五十六をはじめ、実在した人物が登場するためリアルな史実と感じさせるが、これはフィクションである。

 冒頭は昭和20年4月7日の戦艦大和撃沈の様が描かれている。空を覆いつくす米軍戦闘機に大和甲板からの砲撃は虚しくも届かない。巨大な船体を無防備に晒したまま、米軍機の爆撃は容赦なく大和を襲う。兵士たちの流す血が甲板を赤く染める。不気味な軋み音ともに、大和は傾き海に消える。山崎貴監督得意の圧巻のVFXをいきなり見せることは、ほぼ“出オチ”になってしまうのではと、あらぬ心配をしたものの、その後の展開は一変して派手なアクションシーンはなく、予測を見事に裏切る。

 昭和8(1933)年。日本は大陸への侵攻をめぐり、欧米各国と対立を深め、国際連盟から脱退し、国際社会での孤立化は深刻なものになっていた。帝国海軍では巨大な戦艦建造計画が議題に挙がっていたが、山本五十六海軍少将(舘ひろし)は来るべき開戦に備えるには巨大な戦艦ではなく、戦闘機の発着が可能な空母を中心に置くべきという考えだった。戦艦建造派の嶋田少将(橋爪功)は、造船中将の平山(田中泯)の設計案をもとに、海軍大臣の大角(小林克也)を抱き込み、計画をごり押ししようとしていた。山本と永野中将(國村隼)はそれを阻止すべく、計画案の不正を暴くため、100年に1人の天才数学者で元帝大生の櫂直(菅田将暉)にその命運を託す。

 戦争ものにはリアリティが求められる。それは言葉づかいや立ち振る舞い、服装、髪型にまで及ぶことがある。そういう観点から言えばあり得ないことだらけなのだが…。推進派からの理不尽な妨害にも屈することなく、権力に臨む櫂の姿は、はじめ反感を抱いていた田中少尉(柄本佑)をも引き込む。決定会議での試案の嘘を暴く櫂の説明は、説得力ある演説へと転ずる。沈黙を破った後の平山の存在感も圧倒的で、違和感は吹っ飛び、ついには物語に引き込まれ感動すら覚えた。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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