岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

憎悪や妬み、嫉妬が渦巻く人間描写は監督の真骨頂

2019年07月15日

誰もがそれを知っている

© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

【出演】ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン
【監督・脚本】アスガー・ファルハディ

人間の心理を巧みについた描写はいつもながら鋭い

 当人だけが知らないで平気でいる例えに、「知らぬは亭主ばかりなり」という慣用句がある。家族関係を中心に宗教観や社会的規範に基づく人間の心理を、極限まで張り詰めた緊張感みなぎる画面とリアルなセリフで描いてきたアスガー・ファルハディ監督の最新作は、「知らぬはパコ(ハビエル・バルデム)ばかりなり」だったという誘拐ミステリー映画である。

 パコはどういう人物かというと、アルゼンチンから妹の結婚式のため故郷のスペインに帰って来たラウラ(ペネロペ・クルス)の元恋人。地主だったラウラ一族の使用人だったが、賭け事に負けたラウラの父から土地を購入し、今はワイナリーの経営者として成功している。パコは鈍感なのか何も気付いてないが、村のみんなはパコのある事に関し、公然の秘密として噂を共有している。パコ以外の「誰もがそれを知っている」のだ。

 誘拐されたのはラウラの娘。ラウラ夫妻は娘を救出しようと、唯一身代金が払える財力のあるパコに肩代わりを頼む。パコはどうするか?というのが見所のひとつだが、この3人以外の親族たちは、誘拐犯探しはそっちのけ。過去の土地売買の憎悪や成功者に対する妬みや嫉妬が渦を巻き、大揉めに揉める。ここいらあたりの人間描写は監督の真骨頂。いつもながらの緊迫感あふれる展開は実に面白い。

しかしながら、ミステリーの部分はいささかリアリティに欠けており、チープなB級ドラマのようだ。ツッコミどころ満載のストーリーは、私に「オイオイ、そりゃないよ!」と思わせ、しばしば緊張感が緩んでしまった。おまけにやたら登場人物が多く、結果「犯人はこの人です」と示されても、途中の伏線と結びつかず、私の気持ちの中で「なるほど、ガッテン!」というカタルシスは得られなかった。

 とは言え、人が成功すると羨望が嫉妬を生み、そのうち憎悪に代わっていくという人間の心理を巧みについた描写はいつもながら鋭いのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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