岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

絶望の中にあるかすかな希望だけでも、生きていく価値がある

2019年07月05日

荒野にて

© The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

【出演】チャーリー・プラマー、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー、トラヴィス・フィメル、スティーヴ・ザーン
【監督・脚本】アンドリュー・ヘイ

過酷すぎる現実の中、人生の荒野に立ち向かっていく

 アメリカ北西部にあるオレゴン州は、太平洋に面した農林水産業が盛んな壮大な自然と景観に恵まれた州で、リベラルな気風でも知られている。州最大の都市で全米一住みたい街にも選ばれたポートランドにやってきた父子二人も、そんな土地柄に憧れたのかもしれない。

 女たらしで生活力のない父と暮らすチャーリー(チャーリー・プラマー)は15歳。貧乏で学校にも行ってないが、優しい父とは支え合って生きている。趣味は最も手軽でお金もかからず一人でできるランニングだ。そのランニング中に出会ったのが、厩舎のオーナーのデル(スティーヴ・ブシェミ)で、競走馬リーン・オン・ピートの世話を頼まれる。友達もおらず、現状の生活に我慢するしかなかったチャーリーが、恐らく初めて必要と認められたのである。大人への道の第一歩なのだ。

 ある日、人妻を寝取った事がばれた父が、その夫から殴られる。チャーリーは見ている事しかできず「救急車を呼んでくれ」と叫ぶ事はできても、無力感を覚えずにはいられない。入院費を稼ぐためにデルの仕事を手伝うが、その間に父は死んでしまう。父の死に目に会えなかったチャーリーは、デルから「馬に感情移入するな」と言われようが、ますます馬のピートに身内のように献身的な世話をしていく。しかし、脚の怪我が原因でレースに敗れたため、売却の運命となってしまう。

 ピートと自分の境遇を重ね合わせた天涯孤独のチャーリーは、後先考えずピートを救い出し、今はもう唯一の身寄りとなった叔母さんの家を目指して、ピートと一緒に旅立つ。それは自分の居場所を探す旅でもあるのだ。大人はみんな汚いクソったれだと中二病のように思っていたチャーリーも、少年には過酷すぎる現実の中、人生の荒野に立ち向かっていく事となる。

 アンドリュー・ヘイ監督は、絶望の中にあるかすかな希望だけでも、前を向いて生きていく価値があるのだと、チャーリーを通して描いているのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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