岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ありのままを優しく描く今泉力哉監督のまなざし

2019年05月29日

愛がなんだ

©2019「愛がなんだ」製作委員会

【出演】岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、穂志もえか、中島歩、片岡礼子、筒井真理子、江口のりこ
【監督・脚本】今泉力哉

監督の世界観と俳優陣の演技がマッチした唯一無二の恋愛映画

 恋愛映画の名手、今泉力哉監督の最新作はどこか歪んだ登場人物たちを温かい視線で捉えた、唯一無二の優しい傑作であった。

 主人公テルコ(岸井ゆきの)はマモル(成田凌)が全てであり、仕事よりもマモルを優先してしまう。一方、マモルはテルコに興味はなく、夜中でも平気で呼びつけ、平気で追い出す冷たい男である。また、2人を取り巻く人々も不思議で歪んだ価値観のもとにつながっている。そして、これらの人々の思いは全く交差することなくバラバラの方向を向いている。

 しかし、今泉監督はそんな歪んだ人々を一切否定せず、むしろ温かく見守っている。全編を通して登場人物たちの性格や価値観、関係性が変化しないことが、そんな監督のまなざしを如実に表している。紆余曲折は経るものの、基本的な部分は何ひとつ変化しない、ある意味、起承転結のないこの作劇は、単純にストーリーを楽しんだりドラマティックに盛り上がる作品とは一線を画す。

 彼ら彼女らのありのままを受け入れ、ありのままを描いているこの監督のまなざしは、観客に自分たちの心をも温かく見守られているかのような気持ちにさせる。人間誰しも歪んだ部分を持っており、物語のどこか、登場人物の誰かに共感できるようなポイントが散りばめられている。そのうちの1つでも共感できれば、この映画は心に響くのではないだろうか。

 そして、主人公テルコのセリフとモノローグの使い方も効果的であり、彼女の表出する言葉と内なる言葉を描くことによって、観客が彼女のことを理解しやすくなっている。なおかつ、彼女の思いを知り、彼女の思いが通じないもどかしさを感じることで、彼女に対する愛おしさが増していく。

 独特のアンニュイな雰囲気が全編を包む今泉ワールドを見事に体現し、登場人物たちに説得力を持たせた俳優陣の演技も忘れてはならない。今泉監督の世界観と俳優陣の演技が見事にマッチしたからこそ、本作は唯一無二の恋愛映画となったのだから。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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