岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

過去の実話から現在を戒め、未来を展望する

2019年04月23日

ブラック・クランズマン

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【出演】ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィン ほか
【監督・脚本】スパイク・リー

監督スパイク・リーの怒りと希望

 監督スパイク・リーに注目したのは1989年の『ドゥ・ザ・ライト・シング』だが、1991年の『ジャングル・フィーバー』が黒人監督による黒人俳優の上質のメロドラマで、その才能に目を見張った。まるで、往年のダグラス・サークのような情感にあふれた作風で、芸域の広がりに感服した。90年代を通じて作品の質は落ちず、2002年の『25時』は今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンの転落劇で強い印象を残した。

 ここ数年はキング牧師のドキュメンタリーやNetflixのシリーズもので、日本で劇場公開されることはなく、本作『ブラック・クランズマン』はリー監督の久しぶりの新作。時代は1970年代初頭。場所はコロラド州の保養地コロラドスプリングス。ここに黒人初めての警察官が採用され、ある出来事から白人至上主義団体のKKKに潜入捜査することになる。クランズマンとはKKKのメンバーという意味。これが実話ということがまず驚き。

  劇中、白人至上主義者たちは何度も「アメリカ・ファースト」と叫ぶ。自国第一と主張しながら、その実、「白人第一」であり、「自分第一」なのだ。一方、コロラド黒人学生会の会長であるヒロインの主張も危うい。ブラックパワーと掲げ、差別撤廃を叫びながら、根底には黒人優位性が透けて見える。両者の対立には妥協点が見えない。オバマ前大統領の出現により人種問題は消え去ったように思えたが、ここ数年のアメリカを振り返れば、それは幻想だったと気づかざるを得ない。ラスト数分のドキュメント映像に監督スパイク・リーの怒りが見える。

 ただし、決して絶望しているのではない。70年代のコロラドで起こったことを振り返り、今を戒め、未来に希望を託している。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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