岐阜新聞 映画部

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「許しと寛容」に込めた願いをソウルフードに仮託した家族映画

2019年04月19日

家族のレシピ

©Zhao Wei Films/Wild Orange Artists

【出演】斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
【監督】エリック・クー

シンガポールにおける日本占領の歴史を知っているか

 高崎で父(伊原剛志)のラーメン店で働いている真人(斎藤工)が、父の急死をきっかけに、シンガポール人であった今は亡き母のルーツを探していく物語。「許しと寛容」が家族の絆はもちろん国境をも乗り越えていくという願いを、日本のラーメンとシンガポールのバクテーという両国のソウルフードに仮託して描いた家族映画である。

 現在、日本とシンガポールはとても友好的な関係を築いているが、1942年に英領シンガポールを日本の陸軍大将・山下奉文(マレーの虎との異名。映画マニア的には『シベリア超特急』の探偵役で有名)が「イエスかノーか」と迫って占領した後、華僑虐殺事件を起こし、シンガポールにとって「最も暗黒な時代」となった負の歴史がある。

 真人の祖母マダム・リーが日本人と結婚した娘メイリアンを許さないのも、孫の真人と会おうともしないのも、家族を日本軍に殺された過去があり許さない気持ちがあるからだ。

 1965年に独立したシンガポールの初代首相リー・クアンユー氏が、日本との関係に関して「Forgive, but never forget(許そう、しかし決して忘れない)」という、敵対するのでなく受容する政策を選択したおかげで国と国との関係は穏やかになったが、許せないという気持ちが残る祖母に共感できるのも確かだ。

 そこで仲を取り持つのが、ラーメンとバクテーである。それを融合した「ラーメン・テー」というベタなネーミングの料理が、マダム・リーの頑なな気持ちを解きほぐすきっかけとなる。そこには美味しいものは美味しいという食の本分がある。その料理の味は真人の味であるが、マダム・リーの味が受け継がれていた。それが証拠に、マダム・リーが作ったスープは真人の母の味であったのだ。

 シンガポール在住のフードブロガーが松田聖子という豪華さには驚くが、街の匂いや風景を自然に描き出しているのは、さすがエリック・クー監督である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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