岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

神秘的な風習から蘇る家族の絆

2019年04月12日

洗骨

©「洗骨」製作委員会

【出演】奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎、筒井真理子
【監督・脚本】照屋年之

余技ではない、本気の映画づくりに感嘆

 沖縄には海岸線を中心に、石灰岩質の地層が侵食されてできた洞窟が多く見られ、それらは“ガマ”と呼ばれている。戦争時にはそのいくつがが壕として使われ、そこで戦死した人々がいたことから、負の記憶としての印象がある。しかし、そこはまた埋葬の場で、神の居ます場として神聖視されてもいた。民俗学ではユタ、ノロという呼び方で巫女=祝女の存在が知られ、このシャーマンという信仰のかたちは、沖縄地方をはじめ南西諸島に色濃く分布している。

 “洗骨”というのは、一度、土葬や風葬などを行った後に、死者の骨を洗い再埋葬する葬制で、これも同じような地域に残っている。

 新城家の長男・剛(筒井道隆)は母(筒井真理子)の“洗骨”のため、故郷沖縄に帰ってくる。実家ではやもめ暮らしに荒んだ父・信綱(奥田瑛二)がいる。妹の優子も名古屋から帰ってくるが、彼女のお腹は臨月でふくらんでいた。

 信綱は経営していた工場をつぶしてしまったという負い目と、妻に先立たれた喪失感から、酒に溺れた生活が続いていた。剛はそんな父の情けない姿にいらだち、妹の変わりようにも素直には対応してやれない。そして、自らも口に出せない事情を抱えていた。

 監督・脚本の照屋年之はお笑いコンビ・ガレッジセールのゴリの本名で、映画監督としては、これまで短編映画をいくつか手がけている。前作の『born、bone、墓音。』が高い評価を受け、それを原案に長編として生まれたのがこの『洗骨』となる。オリジナルの脚本も書き、映画づくりは余技ではない。

 神秘的な風習を介して描いた家族の再生の物語はよく練られているが、少し残念なのは、所々に挿入される“コント落ち”が、流れを台無しにしていることだ。しかし、洗骨の風習を丹念に描いたシーンは見事で心に滲みる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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