岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

マリア・カラスの凄みが伝わってくる優れたドキュメンタリー

2019年03月14日

私は、マリア・カラス

© 2017 - Elephant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cinema

【出演】マリア・カラス
【監督】トム・ヴォルフ

本人映像の強みは、すべてひっくるめて感動が共有できること

 私にとって敷居が高く馴染みの薄いオペラではあるが、さすがにマリア・カラスの名前は知っている。映画は未知の分野へもたった2時間で導いてくれる優れものの芸術であるが、岐阜CINEXでカラスファンと思しき方々と一緒に観た20世紀最高のソプラノ歌手のドキュメンタリーは、私に至福の時間を与えてくれた。

 生前のカラスを知らない若きトム・ヴォルフ監督の映像は、ほぼすべてがマリア・カラス本人の生の声と、発見された自叙伝や手紙の朗読(ファニー・アルダン)で綴られていく。その素材は、テレビインタビューや舞台映像、私的なフィルムや無許可映像まで含めて、驚くべきクオリティで惜しげもなく使われる。カラスの卓越した発声法による、伸びやかでメタリックとも言える歌声を当時の映像と共に聴いていると、その超人的テクニックだけでなく、深い愛や哀しみまでもが表現されているのだと気が付く。本人映像の強みは、歌声に加え、その表情や着ている衣装、歌っている会場、時代や境遇まで、すべてひっくるめての感動が共有できることなのである。

 映画は、子ども時代から絶頂期を迎えるまでの栄光の時期、ローマでの途中降板から引き起こされた大バッシングによる不遇期、オナシスとの恋、晩年のワールドツアーまでが大変分かりやすく整理編集され、カラスの生き様を物語っていく。

 若い頃のカラスは、音楽学校に誰よりも早く来て誰よりも遅く帰る努力家で、課題も翌日には完璧にマスターしてくる優等生だったと恩師が言う。不断の努力が天才をさらに完璧にしたのだ。

 「神様、打ち勝つ力を下さい」。この言葉に象徴されるように、彼女は自己主張をきちんとし、時に激しく闘ってきたが、家庭とオペラの両立に常に悩んでいた姿も幾度も浮かび上がる。常に注目されてきたトップスターの悲しみや孤独が深く伝わってくる。

 マリア・カラスの凄みが伝わってくる優れたドキュメンタリーである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る