岐阜新聞 映画部

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様々な問題を、食を通して巧みに織り込んだ切ない恋愛映画

2019年02月26日

彼が愛したケーキ職人

©All rights reserved to Laila Films Ltd. 2017

【出演】ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス、サンドラ・シャーディー
【監督・脚本】オフィル・ラウル・グレイツァ

制約の多い愛だからこその切なさ愛しさを、繊細なタッチで描く

 事故死したイスラエル人のオーレン(ロイ・ミラー)を巡って、彼がドイツ出張で知り合った同性のケーキ職人トーマス(ティム・カルクオフ)とイスラエル在住の妻アナト(サラ・アドラー)との三角関係を描いた本作は、ユダヤ教の戒律やLGBTの問題、ホロコーストの記憶などを、食を通してそれらを巧みに織り込んだ、切ない恋愛映画である。

 ドイツとイスラエルは、修復不可能な加害者と犠牲者でなく、和解と寛容の精神で、今では良好な関係を保っていると言われる。しかし、政治的にはそうでも、人々のココロの中には今でも不寛容な気持ちが残っているのは、アナトのカフェで働くことになったトーマスを巡る微妙な距離感の中に垣間見ることができる。

 さらにアジア及び中東の中で、最もLGBTに寛容な国と言われているイスラエルにおいても、夫・兄弟がバイセクシャルだと知った時の反応は驚くほど拒否的であり、寛容なのはイスラム圏に向けた政府の政策的パフォーマンスなのではと思えてしまう。

 そこに「非ユダヤ教徒は、料理人であってもオーブンには触れない」というコシェル規定(ユダヤ教の食物ルール)が加わり、トーマスのジレンマは益々深まっていく。

 こういった様々な制約は、そのルールの中ではいたって寛容であっても、そこから一歩はみ出してしまうと、情け容赦のないバッシングが待っているのである。

 これが長編デビュー作である、イスラエルの若手監督オフィル・ラウル・グレイツァは、むしろ制約の多い愛だったからこそ見えてくる切なさ愛しさを、繊細なタッチで描き出している。

 トーマスが、オーレンの忘れていった鍵で開けたプールのロッカーの中にあった水着を着用して泳ぐシーンや、アナトと関係する時に、オーレンから聞いていた行為をやってみるところなど、彼がいかにオーレンを愛していたかを考えると切なすぎて苦しくなってくる。愛おしい恋愛映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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