岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

考えるのでなく感じる事の素晴らしさを描いた出色の映画

2019年01月09日

日日是好日(にちにちこれこうじつ)

©2018「日日是好日」製作委員会

【出演】黒木華、樹木希林、多部未華子
【監督・脚本】大森立嗣

何と言っても樹木さん。あまりにも自然体で台詞を言ってる感じがしない

 「わび・さび」に代表される、感性と情緒に支えられた日本の文化は、論理的に説明できる欧州文化と違い、言葉にならない美意識を大切にしている。日本の代表的伝統文化である「茶の湯」を取り上げた本作は、物の美しさを愛でる事の大切さ、考えるのでなく感じる事の素晴らしさを描いた出色の映画である。

 樹木希林演じる武田先生は、茶道の様式についてその理由を聞く生徒に言う。「はじめにカタチを作っておいて、後からココロが入るものなのね。」

 理屈でものを理解するのでなく、経験を積み練習を重ねて身につけていくうちに、少しずつ本質が分かっていく。知らず知らずのうちに本物になっていく。こういう境地は、すぐに結果を求められる現代社会へのアンチテーゼになっている。

 さらに武田先生は言う。「あたし最近思うんですよ。こうして毎年同じことができるってことが幸せなんだなぁ~って。」人の生き様は色々あるが、毎年1度同じことを続けていく事は、人生を立ち止まって振り返る点となり、次の1年への計となるのである。

 この映画の心地よさは、二十四節気を基準にした四季折々の移ろいを堪能できる点にもある。障子越しに差す光は夏は短くギラギラし、冬は長く部屋の中まで差し込む。雨は時にしとしと、時にザーザーと降り注ぐ。釜のお湯は「とろとろ」水は「さらさら」など、美しい景色や環境音が我々のココロを優しく癒す。映像と音で表現する映画芸術の特徴を的確に利用していて素晴らしい。

 しかし、何と言っても樹木さんの演技である。あまりにも自然体で台詞を言ってるような感じがしない。上手を通り越して上手を感じさせず、「うらやましい、こういう人に教えてもらいたい」と思えてくる。映画の中の樹木さんは、茶室の畳と同化しており、まるで畳の中から生えてきているようであり、身体は年とともに小さくなっていく。樹木さんを堪能できる、今年を代表する映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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