岐阜新聞 映画部

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恋愛感情の奇怪さや複雑さを絶妙に描く大人向け恋愛映画の傑作

2018年12月08日

寝ても覚めても

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

【出演】東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子
【監督】濱口竜介

恋愛感情なんて、正しいか正しくないかとは別次元

 一途な様で優柔不断でもあり、惚れやすい様で臆病でもある朝子(唐田えりか)の、麦と亮平(東出昌大)というドッペルゲンガーのように瓜二つだが性格が正反対の男との恋の行方を描いた、大人向け恋愛映画の傑作である。

 「人を好きになる」というのは、理屈でなく感覚である場合が多い。本作での冒頭に、朝子と麦が一瞬で恋に落ちるフランス映画っぽいシーンがあるが、日本でも歌舞伎の「お富与三郎」のような一目ぼれによる恋愛物語が、江戸時代から当たり前のように作られてきた。危なっかしくて自分勝手だが、粋でいなせな麦に何故惚れてしまうのか?理屈も答えも無いのである。

 一方で、誠実でどこまでも優しく包み込んでくれる亮平。東日本大震災のボランティアに一緒に行く彼との恋は、するめを噛みしめるようにジワジワと味わいながら幸福を感じていく。一見理屈があるようにも思えるが、これとて「一緒にいて幸せ」という感覚の方がウェートを占めているのである。

 今までの日本映画では、朝子は亮平の元に収まるのが普通であるし、観客の多くはそれを望んでいるであろう。しかし、本作では、好きだった亮平や何でも相談できた友人関係を断ち切ってまで、突然舞い戻って来た麦の元へ一旦は行ってしまう。

 何故そういう行動をとったのか?なんて本人にも分からないだろうし、ましてや見ている観客に分かるはずがない。恋愛感情なんて、正しいか正しくないかとは別次元なのである。という描き方が、昨今の恋愛映画とは一線を画した濱口監督の真骨頂なのである。

 北海道へ麦と逃避行している途中、ボランティアで通っていた仙台で、東日本大震災の復興でできた巨大な壁のような防波堤の上から海を眺めていた朝子は、地に足のついた生活を営む亮平の元へ戻ろうと決意する。

 濱口監督は両極端の間を揺れ動く朝子を通し、恋愛感情の奇怪さや複雑さを絶妙に描いている。素晴らしい人間物語である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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