岐阜新聞 映画部

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死刑制度について考えさせる重くて深い映画

2018年11月26日

教誨師

©「教誨師」members

【出演】大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研
【監督・脚本】佐向大

罪と罰に関する深遠な問いかけをしてくる

 今年7月、オウム真理教の死刑囚13人の刑が執行され世界に衝撃を与えたが、日本の世論調査によると「死刑もやむを得ない」と答えた人は80.3%となっている(2014年内閣府調査)。世界の大勢は死刑廃止の方向へ向かっており、2017年末の時点では、142か国が事実上死刑を廃止(アムネスティ報告)していて、OECD加盟国では日本と米国のみとなってきている。

 「死んでお詫びをする」という、我が国独特の罪悪に関する感情がある中で、死刑囚と教誨師との対話を通じ、罪と罰に関する深遠な問いかけをしてくるのが本作である。

 教誨師は、面接を望む死刑囚や受刑者と対話し、宗教的教義で悔恨を促したり、心の安定に寄り添ったりする。

 大杉漣演ずる佐伯牧師は、6人の死刑囚と面接を続けるのだが、彼らはいくら悔い改めようが死にゆく事に変わりがない。後戻りできない過酷な状況の中で、佐伯はじっと耳を傾け、時に共感し時に反発しながらアドバイスをしていく。

 親分気取りのヤクザ(光石研)は、告白してない殺人を持ち出すことで執行の先延ばしをねらう。気のいい大阪のおばちゃん(烏丸せつこ)は、出所してからの生活というあり得ない事を夢想しながら、現実を逃避する。無言を貫いていた男(古舘寛治)は、佐伯の過去の告白を聞いて涙する。気弱で人の好さそうなお父さん(小川登)は、懸命に生きた事をとつとつと述べる。障害者の大量殺人を行った青年(玉置玲央)は、自分勝手な理論を展開し、死の意味について佐伯に論争をもちかける。字を知らないホームレスの老人(五頭岳夫)は、字を覚えキリスト教に入信する事で、自分の心情を書き表すことができるようになる。

 ほぼ教誨室の中だけで展開される本作は、練りこまれた脚本と芸達者な役者たちのセリフだけで物語は進んでいく。張りつめた空気感と緊張感のある演出で、死刑制度について考えさせる重くて深い映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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