岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ブリティッシュ・コメディを土台に、ロシアン・ジョークを盛り込んで滑稽な人間模様を巧みに描く

2018年09月29日

スターリンの葬送狂騒曲

©2017 MITICO・MAIN JOURNEY・GAUMONT・FRANCE 3 CINEMA・AFPI・PANACHE・PRODUCTIONS・LA CIE CINEMATOGRAPHIQUE・DEATH OF STALIN THE FILM LTD

【出演】スティーブ・ブシェミ、ジェフリー・タンバー、オルガ・キュリレンコ、マイケル・ペイリン
【監督】アーマンド・イアヌッチ

ギャグで笑わせるのではなく、人間の愚かさで笑わせている

 「何を笑うかによって、その人柄がわかる」(マルセル・パニョル)

 リアクションの派手さで笑わせるスラプスティック・コメディは、言語の違いを超えて世界共通の笑いとなっているが、風刺や皮肉で苦笑させるブラック・コメディは、ある程度の教養と知識がなければ笑えない性質を持つ。

 本作の監督であるイギリスのアーマンド・イヌアッチは、知的に世相を斬っていく言葉遊びが主体のブリティッシュ・コメディを土台に、政治や社会に対する風刺や批判を密かに笑いとばしたロシアン・ジョークを盛り込んで、人間の醜さと滑稽な人間模様を巧みに描きだした。

 「事実は小説よりも奇なり」(バイロン)というが、本作で描かれた内容は、ほぼ史実通りである。スターリンが小便まみれで危篤になったが朝まで発見されなかった事も、イエスマンだった幹部連中が途端にコロッと態度を変えて自己保身に走ったり、互いの足を引っ張り合った事も。その後の会議は小学生の児童会レベルであるにも関わらず、権力を持っているというだけで重要事項が決まっていく。実に恐ろしく阿保らしい。映画でこの様子を見て笑えるという事は、独裁的権力の怪しさや怖さを、ジャーナリスティックに敏感に捉えている証である。

 官僚としては優秀でも、政治家としては無能なスターリンの側近中の側近マレンコフ、敵を片っ端から粛清してきた鬼畜でエロ親父のベリヤ、いかにも体育会系の軍人ジェーコフ、単なるバカ息子のワシーリーなど、実在する登場人物みんなキャラがたっているが、最後に権力を握るフルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)の暗躍ぶりは際立っている。

 イヌアッチ監督は、過去のソ連国内におけるひどい弾圧を入れ込みながら、スターリン死後の権力闘争をセンセーショナルにならぬよう冷静に描いている。ギャグで笑わせるのではなく、人間の愚かさで笑わせているのである。笑いは権力に対する抵抗なのである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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