岐阜新聞 映画部

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「最も偉大な英国人」の苦悩と葛藤を描いた伝記映画

2018年09月17日

チャーチル ノルマンディーの決断

©SALON CHURCHILL LIMITED 2016

【出演】ブライアン・コックス、ミランダ・リチャードソン、ジョン・スラッテリー、エラ・パーネル、ジェームズ・ピュアフォイ ほか
【監督】ジョナサン・テプリツキー

対等な夫婦関係を描いた見事な家庭劇としても◎

 その決断力や指導力によって、祖国から「もっとも偉大な英国人」と慕われるチャーチルのノルマンディー上陸作戦に対する苦悩と葛藤を、人間的側面に焦点を絞って描いた伝記映画である。

 チャーチルは、第二次大戦中のナチスドイツに対する徹底抗戦と、戦後の「鉄のカーテン」と呼ばれる反共政策による冷戦体制の構築で強い指導者の象徴と見られているが、極度の躁うつ病を患っていた事でも知られている。

 政治家の功罪は見方や立場によって評価が違ってくるが、本作はチャーチルを偉大な指導者としてリスペクトしつつ、「気難しくて攻撃的な人」と「悲観的で絶望的な人」の間を揺れ動く、躁うつ病による特質を中心に描いている。

 ある時は側近に怒鳴り散らし、国王にも持論をまくしたてる。一方で、第一次大戦で多くの若者を死に追いやった上陸作戦の失敗は、彼を今でも苦しめる。この躁とうつが交互にやってくる中で、若い兵士を何万人と犠牲にするノルマンディー上陸作戦を決断しなければならなかったのである。

 実際には、こういった人道主義的観点だけで上陸作戦に抵抗したわけでなく、アメリカとソ連が主導権を握ることによって両国の発言力が高まり、それによる戦後のイギリスの地位の低下を予見していたからであるが、テプリツキー監督はこの部分をばっさり切っている。兵隊を「お国のために死んでこい」と戦地に送り出した戦争指導部を知っている日本人としては、チャーチルのような宰相は羨ましくもあるが、彼の人間的側面だけでなく政治的側面も描いた方が、本当のチャーチルにより迫っていったように思う。

 映画全体は、夫チャーチルと妻クレメンティーンの夫婦愛が描かれており、妻は夫に仕えるのでなく、支えるのであり、時に叱ったり意見を言ったりする。支配的でなく対等である。チャーチルを演じたブライアン・コックスの内面の演技が素晴らしく、見事な家庭劇にもなっている。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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