岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

生命の息吹あふれる画家・熊谷守一の森

2018年08月11日

モリのいる場所

©2017「モリのいる場所」製作委員会

【出演】山﨑努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史
【監督・脚本】沖田修一

見つめる優しさ 触れる喜び

 画家・熊谷守一は1880(明治13)年、岐阜県恵那郡付知村(現・中津川市付知町)に、機械紡績を営む実業家で地主の家に三男(七人兄妹の末っ子)として生まれた。子どもの頃から絵が好きで画家になることは早くから志した。美術史的には“フォービズム”の画家と分類されるが、「へたも絵のうち」に代表される、簡略化、抽象化された絵画世界の方が馴染み深い。映画の冒頭、昭和天皇が展覧会の折、熊谷の作品を前にして、「この絵は何歳の子が描いたのか?」と尋ねられたという、有名なエピソードが挿入される。

 1956(昭和31)年、76歳の時、軽い脳卒中を患ったのち、自宅から出ることなく、庭を散策して過ごすようになり、その仙人のような生活は20年に渡って続けられた。熊谷は著書のなかで、30年間家から出ていないと書いているが、これは正しくはない。

 『モリのいる場所』は、そんな熊谷守一(山崎努)のとある一日を描いている。時代設定は1974(昭和49)年、守一が94歳の時だが、途中のエピソードは事実に時差がある。大きな変化のない、それを好まない人の話だから、それは気にしない方がよい。

 朝、妻の秀子(樹木希林)と美恵ちゃんが台所で朝食の準備をしている。会話はかみ合っているようで、そうでもないが、秀子の前夫の話が出ていて、一瞬驚く。3人の朝食の風景はホームドラマの作り。小ネタギャクで笑わせる。

 朝食後の守一のお出かけ。両手に杖を携え、危なげではあるが、慣れ親しんだ足どり。庭には生命の息吹がいたるところにある。イモリが草むらを走り、黒アゲハ蝶が樹の葉にとまる。地べたに頬をつけて蟻を見つめる。確かに奇人の態だが、自然と一体になろうとする姿は真摯に見える。

 熊谷家には訪問者が絶えない。画商や写真家や、さまざまな依頼人であったりするが、生活に踏み込んでいながら、距離を保っているという空気感が、優しいこの映画の核であろう。夜、画家は学校へ行くと言ってアトリエに入る。だが、絵を描くところは遂には見せない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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